PELICAN FANCLUB、ジャンルレスな音楽性を貫くロック・バンドが成し遂げた変化(メジャー1stフル・アルバム『解放のヒント』発売記念①)

PELICAN FANCLUB、ジャンルレスな音楽性を貫くロック・バンドが成し遂げた変化(メジャー1stフル・アルバム『解放のヒント』発売記念①)

前書き

千葉県千葉市出身の3人組ロック・バンド、PELICAN FANCLUB(ペリカンファンクラブ)。2012年に結成された彼らは、きのこ帝国やTHE NOVEMBERS、syrup16gらを輩出した《UK.PROJECT》の傘下にある、インディーズ・レーベル《DAIZAWA RECORDS》よりデビュー。2018年秋には大手レーベル《Ki/oon MUSIC》から悲願のメジャー・デビューを果たした。

そんな彼らは来月2日、メジャー・デビュー後初となるフル・アルバム『解放のヒント』をリリースする。本作はアニメ・タイアップとなった「ディザイア」「三原色」「Who are you?」のほか、既にライブで披露されている「儀式東京」「俳句」等、バンドの根幹にある日本語ロックと90年代のポスト・ロック及びシューゲイザー、また近作において顕著なエレクトロやテクノ・ポップなど、これまでより一層多様な音楽を自身の音楽性に落とし込んだ全16曲を収録した大作となることが公式HPより告知されている。

そこで本稿では、彼らのメジャー1stアルバムとなる『解放のヒント』の発売を記念して、これまでにPELICAN FANCLUBがたどってきたキャリア、またそれに付随する音楽性の移り変わりを作品のリリース時期ごとに振り返っていきたい。『解放のヒント』で初めて彼らと邂逅する人のガイドとしてはもちろん、改めてPELICAN FANCLUBという純然たるロック・バンドが放つ音楽との再会を試みるリスナーの「ヒント」として、是非本稿を役立てて欲しい。

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『ANALOG』(2015)

人目を嫌い、伏し目がちな印象を放っていたフロントマン・エンドウアンリ(Vo&G)の紡ぐ歌詞は、太陽光に包まれるように透き通った純然さを帯びていただけでなく、時にはドメスティックな言葉を選ぶ奇抜さも携えていた。それゆえ手で触れようとも弾かれてしまいそうな不可思議な存在に迫る好奇心から彼らの虜になるのは、今思えば時間の問題であったと思う。リリース時の宣材として使用された、メンバー全員が芝生の上に寝転んで空を仰ぐアーティスト写真。『ANALOG』を聴いた時、そのアー写が本作を象徴しているように思えてならなかった。

絹のように瑞々しく、何もかもを真っ白に染め上げていくような歌声は本人も公言している通り、コクトー・ツインズのヴォーカル、エリザベス・フレーザーからの影響を強く思わせる。‘‘何が欲しい 気に入ってくれるかな 小さな幸せが毒に変わっていく’’(「凪の頃」)。発売当時、随所で「多幸感溢れるドリームウェーブ・バンド」と評されてきた当時の彼らだが、本作で見せていたのは陶酔するほどの品の良さだけではない。美しい比喩表現の真裏でシリアスな言葉をあえて選ぶその姿勢には、ただ現実離れした音楽が鳴らされているだけではないことを確信させた。

『PELICAN FANCLUB』(2015)

「表層と根本を同時にみつめる複眼的な視点、楽曲の多様性とジャンルレスな部分も含めて出せる側面を全て出すことができた」とメンバー全員が自信を持って納得したことから、2ndミニ・アルバムであるにも関わらずセルフ・タイトルを冠してドロップされた本作のコンセプトは日常に潜む「謎」だ。感性の奥深くまで沁み渡っては刺激する妖美なメロディと、韻を意識し緻密に作り込まれたリリック、生や死を題材に展開されるシニカルな歌詞、また主に「プラモデル」に見られる、ポスト・パンクやシューゲイザーからの影響が窺えるノイジーなサウンド。当時20代前半の彼らが作り上げたとは、にわかには信じ難いほどバランスの保たれた美しい作品像。それは当時からジャンルレスな音楽性を志向しながらオリジナリティを確立することを実験的に行おうとしていたことを思わせる。

さらに、本作のテーマを一層誇張する‘‘I don’t understand 表現の自由って何?’’というサビのフレーズが印象的なリード・トラック「Dali」はインディーズ時代の彼らのステージを象徴する楽曲となり、2017年以降はイントロのメロディに乗せてハンド・クラップを煽る場面も見受けられたが、この楽曲で歌われる内容こそが彼らの言う「複眼的な視点」を軸に展開されたものであることを踏まえると、日常に潜む不透明な疑問(=謎)との対峙、が歌われていることに気づけるはずだ。

『OK BALLADE』(2016)

抽象的な歌詞とジャンルを横断しながら自身の楽曲にインプットしていく制作姿勢、またMCを極力挟まない低体温のパフォーマンスを軸に活動を展開していた彼らだったが、『OK BALLADE』以降は大きくその基盤を変えていく。

常緑樹・レッドロビンのグラフィックが暖かな赤色のアルバム・ジャケットにあしらわれた本作のテーマは「共有」だ。MVと同時に先行配信となったリード・トラック「記憶について」で歌われる‘‘思い出をひと口譲ってよ’’のフレーズは作品のコンセプトを押し上げるものであることは言わずもがなだが、彼らが自身の楽曲の中で初めて「君」である聴き手を意識したフレーズを選んでいることに、衝撃を受けると同時に心底感嘆した。

独特な言い回しや比喩の中から深層心理を浮き彫りにさせていた『ANALOG』や『PELICAN FANCLUB』とは異なり、ストレートな言葉を用いることで高い解像度を目指した本作。リリース時のインタビューでカミヤマ(B)は「当時はかっこつけたかったんだと思う」と語っていたが、それ以上に彼らのアーティスト像を再構築するまでに導いたのは、デビュー当時より重ねてきたステージの数だ。リスナーを「君」、作詞/作曲を手掛けるエンドウ自身を「僕」に見立て、君と僕が交わる「今」を歌う全8曲では、「喜怒哀楽の感情を全て音楽に」落とし込むことを前提に作られた陽性ドリームポップ・ソング「Ophelia」やエンドウ自身が抱える学生時代のコンプレックスを歌った「youth」、日常への不満や憤怒を包み隠さず曝け出した「説明」など赤裸々な歌詞と共に色鮮やかなサウンドを展開。

本作のリリースツアー・ファイナルではThe Mirrazとも共演、終演間際には涙を零しながら(エンドウが非常に涙脆い人間であることを知ったのもこの頃からだ)力強くマイクを握り締め、「着いてきて」と繰り返す姿が今でも印象に残っている。『ANALOG』『PELICAN FANCLUB』の2作品を経て生まれた『OK BALLADE』が以降のバンドを支える基盤となったことは、火を見るよりも明らかだ。

『Home  Electronics』(2017)

「いつでも側にある家電のようなアルバムに」という想いから名付けられた3rdアルバム『Home  Electronics』。ストレートな歌詞とメロディが主体となっている点は『OK BALLADE』同様であるものの、臨場感溢れるサウンドからは更なる飛躍を感じさせる。

疾走感に満ちたスタジアム・ナンバー「深呼吸」から幕を開け、‘‘さよならは言わない ナイトダイバー’’と戦意にも似た覚悟を示すリード・トラック「Night Diver」へ。柔和な表情を見せるミディアム・バラード「花束」や前作収録の「説明」とのシンパシーを感じさせる「Black Beauty」。家電のように楽曲それぞれが異なる役割を持ちながら、クリーンなサウンドはやはり耳心地が良く立体的に作品像を浮かばせる。

また兼ねてからSF小説が好きだと語るエンドウの独特な感性が放つ「ダダガー・ダンダント」は歌詞を見れば分かるように、「もしも地球がもう1つできたらどうするか」というエンドウが創り出したフィクションが綴られている。‘‘ねえ ここにいてよ 君が好きだから’’と歌われる限りは、私もここにいたいと切に願う。

「SF fiction」「Shadow Play」「ガガ」(2017〜2018)

2017〜2018年にリリースされた3つのシングル曲「SF fiction」「Shadow Play」「ガガ」についても触れておきたい。「SF fiction」「Shadow Play」については当時楽曲のストックが相当数あったうえでの配信リリースと見ているが、幡ヶ谷forestlimitでの開催を起点に断続的な自主企画として打たれたフロアライブ《DREAM DAZE》(通称「ゼロ距離ライブ」)がこの頃に産声を上げたことを鑑みると、これまでよりも対リスナーへ深く接近することを意識して作られたのだと思われる。

一方、ギタリストが脱退し3人体制になった直後に放たれたライブハウス限定シングル「ガガ」は‘‘どうしたらいいの ここから先は’’と不安を吐露する姿が見受けられたものの、エンドウの心情とリンクするエモーショナルなサウンド像を作り上げた点にはバンドの強度を実感する。長いキャリアの中で直面した障壁は高く、バンドにとっても「ガガ」のリリースは予期せぬことだったかもしれない。しかし、それさえ音楽に落とし込むことができたのは、この時点で彼らがリスナーへ絶対的な信頼を持っていたからだ。そしてその信頼こそが、バンド自体を立て直す突破口となったことは言うまでもない。

『Boys just want to be culture』(2018)

完全再現ライブ《SPACE OPERA》や360℃フロアライブ《DREAM DAZE》全国ツアーの開催、《UKFC on the Road》や《VIVA LA ROCK!》を始めとした大型ロック・フェスへの出演、また彼らの敬愛するTHE NOVEMBERSや昨年活動終了を発表したMaison book girlとの2マン、テスラは泣かない。との北関東を巡るスプリット・ツアー等、幾多のライブ・ステージを経験した彼らはデビュー当時に比べ、技術面やパフォーマンス面の向上だけでなく、人情溢れる暖かなアーティスト性が窺えるようになった。純白のドレスにあえてペンキを塗りたくるように色彩豊かなサウンド像を展開する楽曲性はより多くのリスナーの耳へ届き、作り手から受け手へと渡されることで一層厚みを増した。その確たる証拠と現在地を示す作品として発表されたのが、メジャー1stアルバム『Boys just want to be culture』だ。

「少年は文化になりたいだけだ」との意味をタイトルに冠した本作。商業音楽を鳴らすためにメジャー・シーンへのし上がった訳ではないと言わんばかりのタイトルに、彼らがPELICAN FANCLUBであることの矜恃と強い信念を感じる。「Telepath Telepath」はデビュー当時から演奏され続けてきた楽曲の再録版だが、4人で作り上げていた楽曲を3人で鳴らすことを実践したという点ではプレイヤー個々におけるスキルアップを見ると共に、当時よりも遥かに骨太な音像が窺えた。

スピッツやBUMP OF CHICKEN等の日本語ロックからの影響を受けた豊富なワードセンスとメッセージ性、そしてキュアー、My Bloody Valentine、Rideなど音楽的素養に優れたハイブリットな感性は幅広いリスナーへアプローチすることの可能性を孕んでいる。どの楽曲にも欠けることなく無類の愛が歌われた本作で、既に彼らとリスナーは固い絆の上にあることを強く思った。また、本作最後に収録されている「ノン・メリー」ではエンドウが兼ねてからライブ会場へ訪れるファンへ告げていた‘‘嫌がってでも連れて行く’’というフレーズからも、アルバム・タイトルと同様に強い意思表示が含まれていることを感じられる。少年が描く未来への期待と好奇心が理想像に掲げる「文化」という存在へ近寄るべくメジャーへ踏み込んだ文字通りの意欲作で、彼らは新たな切符を手にしたのだ。

『Whitenoise e.p.』「Amulet Song」「ディザイア」「三原色」「Who are you?」(2020〜2021)

メジャー・デビュー以降の彼らは優美にその才を発揮し、2021年に至るまで5作品をリリース。「ベートーヴェンのホワイトノイズ」では活動初期から彼らの音像を象徴する‘‘ホワイトノイズ’’(様々な周波数の音を同じ強さで再生したミックス音のこと)をモチーフに制作された点がメジャー以前のバック・グラウンドを新規リスナーへ訴求していることを思わせるほか、リクルートホールディングスからオファーを受けて就活生応援ソングとして発表した「Amulet Song」では以前からジャケット・ワークを手掛けていたクリエイト集団・GraphersRockによる工業デザインをあしらったコラボレーションMVが印象的だった。

また「アニメ・タイアップ3部作」となった「ディザイア」「三原色」「Who are you?」ではエンドウ、カミヤマの両名が中学生の頃から夢見ていた「少年ジャンプ作品の主題歌を任せられるバンドになる」という理想を見事叶えてみせただけでなく、原作のストーリーを踏襲しながら‘‘想像していたより遥かに超えていた’’(「三原色」)や‘‘嵐の中飛び込んだ ここは僕の想像なんだ いま君に会いに来た’’(「Who are you?」)とバンド視点での(メジャー以降の)景色を描くメッセージ性も孕んでいる。更には一聴して幅広い層にとって耳馴染みの良いギター・ロックの音像でありながら、サビのバックでは水面下的にドリームポップやシューゲイザーの様式美を忍ばせているという点においても、長いキャリアの中で模索しながらオリジナリティを構築し続けてきた彼らだからこそ為せた技ではないだろうか。

パフォーマンス面においては、「三原色」のリリース・ツアーでは東名阪を赤、青、黄色に分けて楽曲の持つイメージ・カラーをそれぞれに振り分けて組んだセットリストで演奏。本編ラストに「三原色」を披露することでそれぞれの色が混ざり合って透明になるのと等しくして、バンドとリスナー間においても「1つになる」という強固な繋がりを実感させるコンセプト・ライブとなった。またコロナ禍で行われた配信ライブは彼らの結成の地である千葉と掛け合わせ、事態収束の願いを込めた《千葉市並行》(=「千葉市へ行こう」)のタイトルと共に、生まれ育った街の景色を歌詞に込めた「Heaven or poolland」を披露。更に、昨年春に行われたワンマン・ツアー《予感》ではMy Bloody Valentineの「you made me realise」を各地にてカヴァー。既に新規リスナーを多数獲得している中で突然のカヴァー曲には戸惑う姿も多く見受けられたが、彼らのルーツを覗き見る絶好の機会とも捉えられ、他方で高揚するファンも多かったはずだ。

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過去に虐めを受けていたエンドウが復讐の手段として手に取っていたはずの音楽は、デビュー当時から現在までの間にその姿や色を変えながら無色透明の柔らかな光となった。‘‘次回 青いドラマ 期待したい’’(「Day in Day out」)と自らの夢を楽曲に乗せて追い求める野心と底知れぬスケール感には毎度のことながら感服するほかない。既に先行配信されている「俳句」においてもラウド色の強い新たなギミックを施しており、正直最新作の全貌はこれだけ彼らを追い続けていても分かり得ないが、虐めの復讐として音楽を手に取ったエンドウが最新作を『解放のヒント』と名付けているのであれば、本作が冒険心に富み、自身の感性を最大限度まで「開放」した自由度の高い作品であることは間違いないように思う。今月末から開催されるツアー・タイトルは《解放のドキュメント》。キャリア10年目、メジャー・デビューからは4年が経過した彼らが放つ光に照らされながら、解き放たれた世界の中で奏でられる音に是非とも耳を傾けてほしい。

翳目