【入門】Sunny Day Real Estateが再結成──バンド・ヒストリーやディスコグラフィーからエモ・シーンでの歩みを振り返る

【入門】Sunny Day Real Estateが再結成──バンド・ヒストリーやディスコグラフィーからエモ・シーンでの歩みを振り返る

近年、90年代を代表するエモ・バンドが次々と復活を遂げている。2016年に誰も予想していなかった2ndアルバムをリリースしたAmeican Footballを皮切りに、The Get Up Kids、Mineralも2019年に新作をリリース、来日ツアーも行っている。

そして2022年1月、とあるニュースが世界中のエモ・ファンを熱狂させた。Sunny Day Real Estate(サニー・デイ・リアル・エステイト、以下SDRE)の再結成である。

新作のリリースなどの詳細はまだ明らかになっていないが、ツアーを開催するということと(9月にシカゴの『Riot Fest』に出演)、オリジナル・メンバーのジェレミー・エニック(Jeremy Enigk / Vo. Gt.)、ダン・ホーナー(Dan Hoerner / Gt.)、ウィリアム・ゴールドスミス(William Goldsmith / Dr.)さらに、“まだ無名である追加ミュージシャン”が参加するという情報のみ公開されている(※2022年7月時点)。現在はFoo Fightersで活動するオリジナル・メンバー、ネイト・メンデル(Nate Mendel / Ba.)は残念ながら今回の再結成には不参加とのことだが、それでもこの復活は嬉しい。

そんな奇跡の復活を遂げたSDREの軌跡を、彼らの過去作を振り返りながら解き明かしていく。

エモ全盛期を牽引したSunny Day Real Estate

SDREは1992年にシアトルで結成され、94年にアメリカのインディペンデント・レーベル《Sub Pop》から1stアルバム『Diary』をリリース。それが引き金となったのか、彼らと共鳴したかのようにその後各地でエモ・バンドが誕生し、その多くがエモの代表と言われるバンドとなっていった。93年のJimmy Eat World、94年のMineral、95年のThe Get Up Kidsなどが良い例だろう。そして、SDREはそんなエモ全盛期の中で彼らを牽引する存在となったのだ。

エモの確立とSDREのルーツ

エモ(EMO)はパンク/ハードコアをルーツに持つ音楽ジャンルの一つである。80年代にワシントンD.C.の《Dischord Records》が中心となり巻き起こった80’s USハードコアの派生であり、感情をさらけ出すようなメロディと陰鬱とした歌詞が特徴的なミュージック・スタイルである。90年代頃には確立し始めたエモだったがまだ世間一般には伝わっておらず、当時は定義も不安定だった。そんな新しいジャンルであるエモをここまでメジャーにしたのが、SDREやThe Get Up Kidsといったバンドたちなのだ。

SDREをエモという言葉を使わずに説明するのは難しい。彼らはハードコアはもちろんグランジ、ポストロック、オルタナなど様々な音楽を取り入れており、特定のジャンルを定めてはいなかった。事実、Nirvana、The Smashing Pumpkins、Fugaziなどのグランジ/ハードコア・バンドから、Talking HeadsやKing Crimsonに至るまで、かなり幅広い音楽からの影響を公言している。

特にNirvanaの伝説的なアルバム『Nevermind』はSDREが結成する1年前にリリースされており、彼らの音楽に直接的な影響を及ぼしたといえる。カート・コバーンは『Nevermind』で流行に流されている音楽シーンを明確に否定し、テクニック押しのヘアメタルや、綺麗に色付けされただけのポップソングらを一蹴した。そして、感情を剥き出しにして声を荒げカート・コバーンの姿は、ジェネレーションXと呼ばれる不感的な若者たちを虜にした。SDREのメンバーも例外ではなかったのだ。

また、SDREのギター・リフは当時のパンク・バンドとしてはテクニカルなフレーズが多く、そこはKing Crimsonなどのプログレッシヴ・ロック・バンドの影響を感じる。一つのジャンルに絞られずに自分たちの音楽を追及する姿勢が、後のエモ・シーンに共通するDIY精神を作り上げているのだ。

ディスコグラフィーを振り返る

SDREはこれまでに何度も活動を停止しながら、4枚のオリジナル・アルバムをリリースしてきた。それぞれが特徴的であり、どれも彼らを語る上で欠かせない作品となっている。

ではなぜ、SDREは解散と再結成を繰り返しながらも活動を続けてきたのか、あるいはどのような道を歩んできたのか、彼らの軌跡をアルバム作品から読み取ってみたい。

『Diary』(1994)

レーベル:Sub Pop
リリース:1994/05/10

言わずと知れたSDREの記念すべき1stアルバム。それまで曖昧だったエモというジャンルが、このアルバムをきっかけに明確な意味を持つようになる。Nirvanaと同じ《Sub Pop》からのリリースということもあり、グランジ要素がふんだんに詰まっているが、『Diary』がグランジとして紹介されることはほとんどない。それほどエモの代名詞となったアルバムなのだ。

本作で特筆したいのは、曲の中の静と動の使い分けだ。囁くように歌いはじめたかと思えば、突然ギターの轟音と共に感情を爆発させて咆哮する。ジェレミーの歌う表情は泣き顔のようにも見え、観客の琴線に触れる。「これぞエモ」と言える彼の歌声は多くのファンを熱狂させた。

しかし、その熱狂ぶりはジェレミー本人の想定を遥かに超え、『Diary』は売れすぎてしまった。本来なら喜ぶべきことだったが、ジェレミーにとってそれは重圧となってしまい、スランプに陥ってしまう。SDREの崩壊はここから始まったのだ。

『LP2』(1995)

レーベル:Sub Pop
リリース:1995/11/07

通称「ピンク・アルバム」。1stアルバム『Diary』が想像に反して絶大な人気を博し、ジェレミーは様々な重圧に押し潰されそうになってしまう。そんな中で彼は信仰に救いを見出し、熱心なキリスト信者となる。周囲の期待とプレッシャー、そして作曲者だけにしか分からない孤独感と闘う彼にとって、信仰は救いだったのだろう。どうにかアルバムの制作は進んでいった。

しかし、完成を目前にベースのネイトとドラムのウィリアムがFoo Fightersに引き抜かれてしまい、『LP2』は未完のままリリースされることとなった。この出来事がきっかけとなり、SDREは最初の解散を発表。そんなバックグラウンドがあるせいか、本作はSDREの中でも特に陰鬱とした印象を受ける。

『How It Feels To Be Something On』(1998)

レーベル:Sub Pop
リリース:1998/09/08

一度解散したSDREは97年に再結成を遂げる。その翌年にリリースしたアルバムが『How It Feels To Be Something On』だ。

『Diary』のような初期衝動は息を潜めているが全体的に洗練されたアルバムで、美しいクリーン・ギターとクランチ・ギターの掛け合いは後のエモ・バンドに多大な影響を与えた。パンクというよりはSDREが持つポストロックやプログレッシヴ・ロックの成分が全面に出され、ファンの中では最高傑作だという声も少なくない。

そして、サウンドが落ち着いた分、ジェレミーの泣き出しそうな歌声が際立っており、アルバムを通して妖々しさと清々しさが織り混ぜられたような魅力を感じる。SDREの復活を象徴した名盤だ。

『The Rising Tide』(2000)

レーベル:Time Bomb
リリース:2000/06/20

2000年リリースにして現状のラスト・アルバム。本作リリース後にSDREは再び活動を停止している。その後何度か再開するも、アルバムのリリースはない。SDREにとってはこのアルバムこそが最高傑作であり、今後も新作のリリースはないのかもしれない。そう思うほどに完成度の高いアルバムとなっている。

先程も触れたように、最初の解散をきっかけにジェレミーは熱心なキリシタンとなっており、ジャケットを見ても伝わるように『The Rising Tide』では神様や祈りについての曲が多く収録されている。重厚でノイジーな演奏の中で歌うジェレミーはまるで祈っているかのようで、神々しさすら感じる。SDREがエモの1つの大きな到達点に辿り着いたことが窺えるのだ。

Sunny Day Real Estateが後続に与えた影響

1992年に結成されながらも実際の活動期間は決して長くはないSDREだが、彼らの音楽は今日までに多くのアーティストへ影響を与えてきた。

先述した通り、SDREと共にエモというジャンルを作り上げてきたThe Get Up Kids、Jimmy Eat Worldらも影響を受けたバンドに決まってSDREを挙げている。また、Benton FallsやCopeland、Saves The Dayというような次世代のエモ・バンドや、Algernon Cadwallader 、Tangled Hairなど2000年以降のいわゆるエモ・リバイバルのバンドからの支持も厚い。

もちろん、彼らの音楽は日本のエモシーンにも大きな影響を及ぼしている。1997年結成のBluebeardはSDREやMineralへの影響を公言しており、難解なギター・リフや感情を吐露しながらもどこか祈るように歌うスタイルはまさに「和製SDRE」と言える。2001年までの短い活動期間でリリースしたアルバムは1枚のセルフ・タイトルのみだが、その後の国内エモ・シーンへ多大な影響を与え、今なお多くのエモ・ファンに愛される名盤となっている。

『Diary』の荒々しさ、『LP2』の陰鬱さ、『How It Feels To Be Something On』の妖艶さ、そして『The Rising Tide』の神々しさなど、SDREの全ての要素が多くのバンドに影響を与え、後のエモ・ブームを作り上げていったのだ。

リユニオン、そして今後の活動は

2022年、SDREが活動を再開する。しかし、筆者の考えでは新曲のリリースはあってもアルバムの発表はないだろう。記述した通り、SDREは『The Rising Tide』で一度完結しているのだ。

しかし、ネイト・メンデルは不参加だが、ほぼオリジナル・メンバーで復活を遂げるということは誰も想像していなかった。前作から20年以上経っていることも踏まえれば、アルバムの可能性も0ではないのかもしれない。様々なバンドに影響を与え、エモというジャンルを作り上げた彼らの新しいアルバムが聴けるとすれば、それほど嬉しいことはないだろう。コロナも収束の兆しが見えてきた2022年。どうか日本にもツアーに来てほしいと切に願う。

Goseki