ワイヤーだけじゃない〜孤高の音楽家、ブルース・ギルバートのキャリアを追う〜

ワイヤーだけじゃない〜孤高の音楽家、ブルース・ギルバートのキャリアを追う〜

皆様はブルース・ギルバートという音楽家をご存じだろうか?--と書いておいて、多分知らない方が大半だろうと考えている。

英国のパンクバンド・ワイヤーの元ギタリストと言えば「あ、そうですよね」という方もいらっしゃるかもしれない。しかし、はっきり言って目立っていたギタリストではないので顔を覚えていないという人が大半でしょ?--とまた考えている。

私はブルース・ギルバートという音楽家が心底好きなのである。

この文章を書いている2020年現在、彼は74歳。
彼をご存じない方にも、彼の長い音楽活動の中から是非聴いてほしい音源5枚を紹介しながら、これまでに至る彼のキャリアを紹介していきたいと思う。また来日して彼の出す音を直に聴きたいと願いながら…。

WIRE『154』

1977年頃から活動を開始したワイヤー。それまでレコーディングなどの技師として働いていたブルース・ギルバートはワイヤーに参加した時点で30歳近く、ほかのメンバーの年齢よりひと回り歳上だった。

これは1979年に発売した、ワイヤーの3枚目のオリジナルアルバム。ラモーンズをよりコンパクトでギクシャクさせたようなパンクバンドからスタートした彼らが、UKらしい憂いと音響実験を取り入れた2枚目『Chairs Missing』を経て、大胆にシンセサイザーとエフェクトを取り入れたのがこの作品。

特にレコードのA面にあたる部分がブルース・ギルバート、そしてのちにユニット・DOMEで共に活動するベースのグラハム・ルイス、プロデューサーのガレス・ジョーンズの影響が色濃く出ている(B面はコリン・ニューマンの個性が出た『Chairs Missing』の延長にある捻くれたギター・ポップ)。

DOME『DOME 3』

1980年にワイヤーが一旦解散するのと前後して、ワイヤーで共に活動したグラハム・ルイスと始動したユニット。パフォーマンスや録音では必要に応じて流動的に様々なアーティストが参加するスタイルを取っていたようだ(後述するアンジェラ・コンウェイや美術家の大竹伸朗も参加)。

ワイヤーでの音楽性の延長にあった1、2枚目を経て、これ以降のグラハムと共に活動する様々なユニットの音楽性に至ったのがDOME3枚目となるこのアルバム。不穏なサックスとシンセサイザー、エスニックともインダストリアルとも受け取れるパーカッションで始まる1曲目「JASZ」でいきなりどこか遠くの世界に連れていってくれる。

ブルースとグラハムの2人はDOME以外にも、ギルバート・アンド・ルイス、クーポール、P’oなどの様々な名義、美術家ラッセル・ミルズとギルバート・ルイス・アンド・ミルズ、《Mute Records》の社長ダニエル・ミラーとデュエット・エモで素晴らしい作品を残している。

A.C.MARIAS『ONE OF OUR GIRLS』

これまで様々なブルース・ギルバート関連作品に参加してきたアーティスト、アンジェラ・コンウェイがA.C.MARIAS名義で1989年にリリースしたアルバム。ブルースが全面的にプロデュースしているだけでなく、ジョン・フライヤーやバリー・アダムソンも参加。

特にシューゲイザーにも通じる浮遊感のあるメロディーにローランド・スチュアート・ハワード(ex.ザ・バースデイパーティ)のヤバいギターが吹き荒れる「TIME WAS」は名曲。

ブルースの配偶者(だった?)と聞いたこともあるのだが、真偽は如何に?

BRUCE GILBERT『AB OVO』

1985年に活動再開したワイヤーも1992年に再度活動休止。その後DJビーキーパー名義で、レーベル面を黒く塗り潰して何のCDか分からない状態の音源をランダムにMIXしていく…といったパフォーマンスなども行っていた模様(日本の花火の音だけを収録したCDが良いとインタビューで語っていた)。

これは、そういったアヴァンギャルドな芸術表現を経て発表された、1996年のソロ名義作品。

いわゆるノイズミュージックに分類されるような電子音楽作品ではあるが、再生ボタンを押した瞬間にビープ音が流れ出すという、小難しく知的な作品の多い彼にしては珍しくちょっとバカっぽい側面もある。普段ノイズ・ミュージックを聴かない方にも比較的取っつきやすい作品だと思う。

なんと音源がSpotifyにもYouTubeにもない。なので代わりに大竹伸朗との交流が見られる貴重な映像を貼っておこう。

BRUCE GILBERT『EX NIHILO』

2000年からWIREが再始動するも2004年にブルースは脱退。その後、まるで仙人のような生活をしている…との噂もあるが、来日公演などもないため真偽は不明。とはいえ、忘れた頃にソロやコラボ作品の発表、インスタレーションへの楽曲提供などの情報が入ってくる。

これは2020年時点では最新となるソロ作品。

それまでは世俗を突き放したような音楽性なれど、同時代に呼応するようなエッセンスが多少なりとも感じられた。しかしここでは正に孤高とも言うべき、彼の理想のサウンドシェイプをただただ表現したと思われる作品となっている。毛穴から浸透してくる音が最高に気持ち良い。

* * *

駆け足ではあるが彼のキャリアと、私が重要だと思う作品を紹介した。
ワイヤーやA.C.MARIASはともかく、決して万人受けする音楽だとは思っていないが、刺激を求めるリスナーや音の求道者を自負するミュージシャンは是非1度聴いて欲しいと切に願う。

そして、あわよくば来日を…。

仲川ドイツ