ジャニーズWESTの応援ソングは、私たちの「現在地」を肯定する
時は遡り2016年。映画『溺れるナイフ』で「お、良い役者さん見つけた」と感じたその人は、俳優ではなくアイドルグループ・ジャニーズWESTのメンバー、重岡大毅だった。
そこからのジャニーズWESTの認識は、「お芝居の上手い男の子と、あと何人か」。
「歌って踊ってお笑いもできる」という関西ジャニーズの系譜に連なっており、『ええじゃないか!』と明るく歌う彼らを「世の中、‘‘ええじゃないか!’’と笑い飛ばせることばかりならいいけどね……」と少し斜めな気持ちで見ていたのが正直なところだ。
それからどれほどの月日が流れただろうか。とある休日、CHEMISTRYの代表曲『Point of No Return』がテレビから流れてきた。
懐かしい歌い出しに想いを馳せながら夕飯の支度をしていた、その時。
え?
歌うま
ぱっと映像に目をやると、なんとCHEMISTRYと共にハーモニーを奏でていたのがあのグループ・ジャニーズWESTだったのだ。
すんげ~歌うまくてビビった。なにがすごいって、ボーカル担当が固定しているワントップ・ツートップ制のグループはよく見るのだけど……ジャニーズWESTの場合、みんなうまい。
まさかこのグループ、実力派なやつなん? ギャップやば!!!おみそれしました!!!
気づけば私は前のめりの体勢で、テレビに釘づけになっていた。
32歳主婦、ジャニーズWESTに出会う。
驚きと興奮に流されるまま、過去の大量の歌番組の録画からジャニーズWESTの出演部分を探しまくった。
安定感のある歌声の桐山照史を筆頭に、高音の伸びやかな濱田崇裕、豊かな表現力を持つ神山智洋と、とにかく歌唱面での人材の豊富さに驚いた。
そして過去を紐解いていくと、驚くべきことにグループは下積みとして元々現メンバーの7人で活動を共にしていたものの、デビューが決まったのは桐山照史・中間淳太・重岡大毅・小瀧望の4人のみだったというのだ。
それをメンバーが当時の事務所社長に直談判した結果、濱田崇裕・神山智洋・藤井流星も再加入の上で一緒にデビューすることにこぎつけたというのだからドラマがある。
全員がメインボーカルを張れるジャニーズWESTが「チーム」として奏でるハーモニーを聴いていると、‘‘7人でのデビュー’’にどれだけの意味があったのかを思い知らされる。
「明るい曲」はこの時代に必要なのか?
元々、底抜けに明るい楽曲が正直好きではない。
さあ立ち上がって!未来へはばたこう!……という元気の押しつけに疲弊してしまう人は、きっと私以外にも少なくないはずだ。
ジャニーズWESTはデビュー曲『ええじゃないか』をはじめとして、明るくて盛り上がる応援ソングを多くリリースしている。
彼らのパフォーマンスが多くの笑顔を咲かせていることは確かな一方で、冷静な部分では「アッパー・チューンばかりだと、せっかくの歌唱力も霞んでしまうのでは?」という一抹の不安もあった。
そんな折。2020年6月、『証拠』をリリース。
(引用:J Storm 公式YouTubeチャンネルジャニーズWEST – 証拠 [Official Music Video])
“こんなにも笑って いや泣いて
忙しなく叫ぶキミの心は 頑張っている証拠だよ”
この曲を聴いた時、ああ、なるほど……と息を呑んだ。
いつもの明るく楽しい応援ソングとは違い、力強いメッセージを孕む本シングル。
けれども彼らが歌うのはあくまで「現時点の自分を認めること」であり、以前のシングルから一貫して‘‘元気’’を強要してはいない。
楽曲のテイストが変化しても、彼らの根本である「肯定」はずっと変わっていないのだと思い知った。
“「置いてきぼり」なんて言わないで
完璧じゃ疲れちゃうよ
らしく行こうぜ”
決して前向きに生きやすくはないこの時代に、応援ソングを届けること。
それはとても時代錯誤なことだと感じていたけれど、私の大きな間違いだった。
もっと高みを目指すように無理を強いるのではなく、‘‘今の自分’’を肯定してくれることに大きな意味がある。
今の時点で、もうすでに皆がんばっている。だから、あくまでも「らしく行こうぜ」なのだ。
2021年、うまくいく一年に
2021年、ジャニーズWESTの年明け一発目のシングル『週刊うまくいく曜日』のリリースが発表された。
サンボマスターの山口隆が書き下ろした本作は、キャッチーなメロディラインにジャジーな一面の隠れた遊び心溢れるサウンドになっている。
(引用:J Storm 公式YouTubeチャンネルジャニーズWEST – 週刊うまくいく曜日[Official Music Video])
“明日からきっと 素晴らしく笑える気がする
必ず光がさすよ、毎日に
明日からきっと 素晴らしいことばっかり起きる気がする
必ず光がさすよ、毎日に”
私たちの過ごすこのもどかしい日々も、まぶしい未来の一歩手前なのだと思える。
約束された歌唱力と、応援ソングを逃げずに歌う姿勢。
彼らが今日も私たちの現在地点をまっすぐに肯定してくれるのだ。
今日も彼らはテレビの中で大きく笑っている。
そして元気いっぱいのその姿から、イントロが流れた瞬間にがらりと表情が変わる。まるで「目の前の人を肯定すること」に責任を持つように。
2021年。ジャニーズWESTというアーティストが見つかる一年は、日本が明るくなる一歩手前の大きな追い風なのかもしれない。
みくりや佐代子
