KARENというバンドがいたことを知ってほしい

KARENというバンドがいたことを知ってほしい

先日、Ropesというバンドが新曲”TONIGHT”をリリースした。

このバンドが何者かというと、ART-SCHOOLやMONOEYESのギタリストとしてもお馴染みの戸高賢史が、ヴォーカリストのachico(アチコ)と結成したもの。「ギター+ヴォーカル(+リズム)」という超最小単位で聴かせる、夜の静寂のためのサウンドトラックのような音楽を奏でるユニットだ。そして、この二人がこうして組むことになった元となるバンドが存在する。

それが、「KAREN」というバンドである。

このバンド、端的に言えば「ART-SCHOOLとdownyのハイブリッド」と形容できる。メンバーは下記の通り。

・アチコ(Vo.)
・木下理樹(G. Cho. / ART-SCHOOL)
・戸高賢史(G. / ART-SCHOOL)
・仲俣和宏(Ba. / downy)
・秋山隆彦(Dr. / downy)

この夢のようなメンバーのバンドは2005年に結成。2010年いっぱいで解散するまで、2枚のアルバムをリリースしている。ART-SCHOOLのファンにとってはお馴染みの存在かもしれないが、どうも過小評価されている感が否めず、また埋もれてしまっている気がしてならない。かくいう筆者も完全に後追いである。そんな訳で、今回は特に名盤として知られるべき1stアルバム『MAGGOT IN TEARS』(2008)をピックアップし、KARENの魅力について語りたいと思う。

 

『MAGGOT IN TEARS』ジャケット

まずはアチコがフィーチャーされた、このため息が出るほど美しいボブヘアのジャケットを見てほしい。鮮やかな紫色のグラデーションが印象的なこのデザインは、アート・ディレクターである木村豊氏によるもの。彼がアートワーク手掛けたアーティストを挙げると、スピッツ、きのこ帝国、木村カエラ、椎名林檎、赤い公園、スーパーカー…と、枚挙に暇がない。まさに「死んだらJ-POPが困る人」である。彼の仕事はこんなところにも息づいていた。

 

ジャケット以外の細部にもこだわりが感じられ、是非ともフィジカルで手にとっていただきたい逸品となっている。

収録曲はどうだろうか。

KARENと言えば、やはり「”Lorraine”」が代表曲だろう。

踊るベース・ライン、駆け抜けるドラム、爽やかに流れるギター、そして伸びやかなヴォーカル。どこまでもポップなこの曲には、KARENの全てが詰まっていると言ってもいい。

ここから浮かび上がるKARENの魅力とは。やはり印象的なのは、アチコのヴォーカルだろう。太く安定感のある低音と突き抜けていく高音を難なく行き来するその歌声は、どの瞬間を切り取っても美しいのだから心底惚れ惚れしてしまう。一度聴くと耳から離れない、まさしく稀代のヴォーカリストと言えるだろう。そして、そのバックでは屈指の完成度を誇るアンサンブルを構築するdownyで培われた強靭なリズム隊と、ジャパニーズ・オルタナティヴの雄であるART-SCHOOL譲りの心地良いギター・サウンドが花を添えている。両バンドの強みが高次元で結実しているのだ。この化学反応こそがKARENのアイデンティティであり、それによって生まれた結晶たちがアルバムを通して輝きを放っているのだ。

また、歌詞は全てアチコが手掛けていることにも注目したい。彼女自身が紡いだどこか不思議な言葉たちがその歌声に乗せて届けられることでKARENの物語は完成する。

乾いた いし 投げ合って
哀しく拾い集めて 持て余す
あいの星を
空に引きずり出して (「”Lorraine”」)

浜辺に もたれて
さんさん君が微笑み
段々 恐れ途切れた
ざわざわ焦がれて
奪いたい夜も忘れて (「Marine」)

愛したリアルは 砂のように崩れて
あなたの胸で響いたの
You feel lie
聴かせて その小さな音を (「Flapper」)

アルバム全9曲全パート、どこに耳を傾けても全く退屈することがない。まさに職人技と言えるほど綿密に作り込まれたポップ・アルバムであることを断言したい。こんなにも素晴らしいバンドを、どうして埋もれさせることが出来ようか。その完成度の高さは、是非あなたの耳で確かめてみてほしい。

さて。2020年、KARENが解散してから10年が経とうとしている。密かに再結成を熱望しているファンも少なくないはずだ。もちろん筆者もその一人。来たるべきその日まで、しばしKARENの音楽に身を委ねることにしよう。

おすしたべいこ