おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年5月】

おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年5月】

先日、ようやく緊急事態宣言が解除された。東京で息をする自分にとって、この1ヶ月半は地下に潜って息を潜めているような日々だったが、そんな閉塞感も少しは払拭された気がしている。筆者の職場も時間を短縮して店舗営業を再開し、少しずつ「日常」を取り戻しつつある。

5月に入って、文章が全然書けなくなってしまった。コロナ禍によって知らず知らずのうちに精神をすり減らし、ディストピア化していくネット社会に心を痛めていることは、決して無関係ではない。上手く言えないが、自分自身のアウトプット機能がごっそり奪われたような感覚。言いたいことは山ほどあって、なんとか形にしようとパソコンの前に座っても、書いては消して、書いては消して…をひたすら繰り返す不毛な日々が過ぎていった。

このマンスリーレコメンドの記事は、自分にとって「文章を書く機会を定期的に設けるための場所」でもある。書かない期間を最小限に留めることができているのは、本当にありがたいことだ。

前置きが長くなったが、今回はリハビリのつもりで筆をとる。どうか拙文にお付き合いいただければと思う。そして、紹介する音源はどれも本当に素晴らしいので、気になった方は是非チェックしてみてほしい。今月も何か琴線に触れるものが少しでもあれば幸いだ。

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AAAMYYY – 『HOME』(SINGLE)

Label – SPACE SHOWER MUSIC
Release – 2020/05/13

Tempalayのキーボーディスト、AAAMYYY(エイミー)によるソロ最新曲。レコーディングのメンバーとして、MONO NO AWAREの加藤成順(Gt.)、TENDRE(Ba.)、SANABAGUN.の澤村一平(Dr.)が参加し、シンプルなバンド・サウンドを構築している。昨年リリースのアルバム『BODY』に顕著のように、エレクトロニカや打ち込みのイメージが強かったAAAMYYYだが、今作のアレンジによって彼女の振り幅の大きさや柔軟さを感じ取ることができるはずだ。

そんな生楽器の優しさに溢れたサウンドに乗せて歌われるのは、大切な人が待つ場所について。それは文字通り「家」でもあり、もっといえば「心の拠り所」という普遍的なテーマが横たわっているようにも感じる。ソーシャル・ディスタンスが当たり前になり、人との繋がりのありがたさを再認識している今だからこそ、この曲が持つポテンシャルは最大限に発揮されるだろう。

Melenas – 『Dias Raros』

Label – Trouble In Mind Records
Release – 2020/05/08

スペイン発のインディー・ロック・バンド、Melenasの最新アルバム。タイトルは「Strange Days」を意味するスペイン語だそう。一聴すれば、彼女たちの「奇妙な」魅力に気づかされる。

先月紹介したピール・ドリーム・マガジンとも呼応する「初期ステレオラブ感」をベースに、サイケやシューゲイザー、インディー・ロックなどで味付けしたような、実に捉え所のないサウンド。この不思議な温度感を正確に捉えたいという欲求に動かされ何度もリピートするようになれば、あなたはもうMelenasの虜だ。

Happyness – 『Floatr』

Label – Infinit Suds
Release – 2020/05/01

ロンドン発のインディー・ロック・デュオ、ハピネスによる3年ぶりの最新アルバム。最初に目に飛び込むのは、ドラマーであるAsh Kenaziのドラァグ・クイーンのような出で立ちだが、彼のスタイルは一筋縄ではいかないサウンドの質感とも上手く調和しているような印象。何はともあれ、まずは「Vegetable」のMVをご覧いただきたい。

どうだろうか。サイケデリックな映像もなかなか鮮烈だが、ティーンエイジ・ファンクラブやダイナソーJr.を彷彿とさせる泣きメロの応酬とギャンギャン唸るギターから、これでもかといわんばかりにほとばしるノスタルジーを感じられるはず。90年代のオルタナティブ・ロックへの憧憬を随所に感じつつもオリジナリティを損なわないバランス感覚が素晴らしく、アルバム全体を通して「懐かしいのに新しい」サウンドを詰め込むことに成功しているのだ。

My Lucky Day – 『My Lucky Day』(EP)

Label – Self Released
Release – 2020/05/23

熊本を拠点に活動するシューゲイズ・ポップ・バンドによる1st EP。ミックスとマスタリングは同郷のKensei Ogataによるもの。真夏の日差しのように降り注ぐキラキラしたシューゲイズ・サウンドと、まるで蜃気楼に溶け込んでいくかのような儚い歌声は、一度聴けば耳から離れなくなる。

Ogata氏がエンジニアで参加した音源としては先月もFerri-Chrome(フェリクローム)の『from a window』を紹介したが、彼の仕事に間違いがないということは今作を聴けばより明確になるだろう。

うだるような炎天下で汗を流し水分を摂取するという行為を通して、生きていることを実感できる夏。この作品は、それと同じような感覚を得られる。「甘酸っぱい」という形容のど真ん中を突くそのサウンドは、ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートを想起させるという点も見過ごせない。彼らは活動を終了してしまったが、こうして今でも影響を受けたバンドが出てくるという事実が素晴らしく、讃えられるべきではないだろうか。

※音源は現在Bandcampで配信中。
My Lucky Day by My Lucky Day

The Bilinda Butchers – 『Night and Blur』

Label – ZOOM LENS
Release – 2020/05/08

サンフランシスコのドリームポップ・バンドによる最新アルバム。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのビリンダ・ブッチャーをそのままバンド名に拝借し、ここ日本でも人気の高い彼らだが、今作は自身のイメージを良い意味で塗り替える意欲作。これまで鳴らしてきたドリームポップやエレクトロ・シューゲイザーの要素は残しつつ、ハウスやクラブ・ミュージック、ドラムンベースなど、テクノ由来の要素を大胆に導入。まさに彼らにとって新境地と言えるサウンドに仕上がっている。

あの「Parental Advisory」のロゴが見えてきそうなジャケットもユニークで、どこかアウトローな雰囲気漂う動物たちが車に寄りかかるイラストは、なんとも遊び心がある。このヴィジュアル・イメージに引っ張られているというのもあるが、『NEED FOR SPEAD』などのレーシング・ゲームのBGMとして本作が流れていても違和感はないだろう。雰囲気としてはM83の『Hurry Up, We’re Dreaming』に近いものがあるかもしれない(実際、同作収録の「Midnight City」は『GT Racing 2』というゲームで使用されていた)。かわいい動物たちが「首都高で流さね?」と今にも誘ってきそう。深夜のドライブでこのアルバムがカーステレオから聴こえてきたら最高だ。

THE NOVEMBERS – 『At The Beginning』

Label – MERZ
Release – 2020/05/27

前作より約1年ぶり、通算8作目となる最新アルバム。シーケンス・サウンド・デザインとプログラミングにyukihiro(L’Arc~en~Ciel / ACID ANDROID)が参加した本作は、昨年リリースのアルバム『ANGELS』の路線を踏襲しつつ、より突き詰めたような印象。ギター・サウンドはさらに遠のき、ナイン・インチ・ネイルズなどに代表されるインダストリアル・ロックの要素を強め、その研ぎ澄まされた音像は余計なものを削ぎ落とし彼らの「コア」に接近するような緊迫感がある。

アルバム制作中にコロナ禍に見舞われ、楽曲の持つ意味が変わってきたという本作。眼差しはすでにアフター・コロナに向けられており、攻撃的なサウンドは現状を突破し美しいエンディングへと向かっていくエネルギーに満ちている。時代と呼応し未来を見据えている点では、GEZANの最新作『狂(KLUE)』にも通ずるものもある。

混沌とした大きな変化の流れに飲み込まれそうになりながら日々を生きている私たちにとって、この作品が持つ意味は大きいと断言できる。まずは聴いてみてほしい。そして「はじまり」を感じてほしい。「開け放たれた窓」で迎えるカタルシスのような感覚が、すべてを物語っている。

對馬拓