おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年7月】

おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年7月】

2020年も折り返し。読者の皆様は、いかがお過ごしだろうか。

こちらといえば、どうにも体調を崩しがちで、健康に生活できることのありがたさを噛み締めるばかりだ。このような状況ではあるが、だからこそ音楽の力が必要だし、誰かの心に少しでも引っかかるような文章が書けたらそれほど良いことはないと考えている。

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HONNE – 『no song without you』

Label – Atlantic Records
Release – 2020/07/03

UKのエレクトロポップ・デュオ、ホンネの最新作。ユニット名は日本語の「本音」から取られており、日本に対する愛着やこだわりを持った作品で知られている。

チルウェイヴ以降の緩やかなサウンドと軽快なビートは相変わらずだが、今作ではコロナ禍で浮き彫りとなった「愛情」や「友情」の大切さがテーマとして通底しており、「誰かを想うことの素晴らしさ」というシンプルなものについて投げかけてくる。

彼らの日本好きを踏まえると、ジャケットや「no song without you」のMVなど視覚的な要素は、自然と夜の東京をイメージさせる。異国のフィルターで描かれる東京は、ソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』とも重なり、少しの間だけ現実逃避するための短い夢のようだ。

おとぎ話 – 『REALIZE』

Label – felicity / P-VINE
Release – 2020/07/03

2019年に配信リリースされたアルバムが、インストバージョンを追加収録してフィジカル化。

後期ゆらゆら帝国を想起させるサイケデリックかつメロウなサウンドと、クルアンビンなどにも通ずるネオソウル経由のアプローチが、絶妙なトリップ感を生み出している。音数を減らし、ミニマルながらも複雑なアンサンブルは、もはや職人技の域だ。まさに、結成20周年を経たからこそ到達できた新機軸と言えるだろう。

UCARY & THE VALENTINE – 『Rescue』(EP)

Label – ANARCHY TECHNO
Release – 2020/07/08

モデルやデザイナーとしても活躍するアーティスト、UCARY & THE VALENTINE(ユカリ・アンド・ザ・ヴァレンタイン)の新作EP。

不思議なあたたかさと心地良い揺らぎを携えたエレクトロニカ・サウンドは、誰しもが心の奥底に秘めるノスタルジーに訴えかけてくる。淡く儚げなヴォーカルの優しさも相まって、忘れてかけていた大切な何かを思い出すことができそうだ。

bdrmm – 『Bedroom』

Label – Sonic Cathedral
Release – 2020/07/03

UK・ハル出身の5人組シューゲイザー・バンド、ベッドルームのデビュー・アルバム。リリースは、良質なシューゲイザーの音源をそろえていることで知られるレーベル《Sonic Cathedral》(ソニック・カテドラル)より。

いかにもUKらしい憂いを帯びたサウンドと儚げなヴォーカルから思い浮かべるのは、ザ・キュアーやコクトー・ツインズ、あるいはライドなど、ドリームポップやシューゲイザーを代表する偉大な先人たち。

しかしそれ以上に、ダイヴ(DIIV)などCaptured Tracksの系譜にも通ずる清涼感もある。あくまで懐古趣味には陥らず、現代的感覚でオリジナリティを獲得することに成功しているのだ。時代を飛び越えた様々な要素が彼らのフィルターを通過することで、ベッドルームのカーテンからほのかに差し込む日の光のような心地良さを与えてくれる。

Becky and the Birds – 『Trasslig』(EP)

Label – 4AD
Release – 2020/07/24

スウェーデンのシンガー、テア・グスタヴソン率いるベッキー・アンド・ザ・バーズのデビューEP。現在、名門レーベルである《4AD》から配信限定でリリースされている。

「Trasslig」はスウェーデン語で「もつれた」や「複雑な」といった意味を表す言葉。美しい高音を響かせながら、どこかチャーミングな印象もあるヴォーカルで、女性的な心情を繊細に表現している。

ヒップホップ的なトラックメイキングや、ネオソウル〜現行R&Bと呼応する洗練されたサウンドに、心を奪われずにはいられない。4ADきっての注目株だ。

DAOKO – 『anima』

Label – TOY’S FACTORY
Release – 2020/07/29

1st以来となる片寄明人との共同プロデュースによる4thアルバム。小袋成彬との共作となった先行シングル「御伽の街」の時点で原点回帰するような印象があったが、アルバム自体はそのエッジの効いたベクトルを深めながらも、多彩な外部アーティストとのコラボレーションによって「今」のDAOKOを余すところなく表現している。

アルバムの方向性を顕著に示すのは、初期の神秘的なイメージにコンテンポラリーかつ狂気的なエッセンスを加えたような表題曲「anima」。PERIMETRONのメンバー、OSRINがMVのディレクターを務め、DAOKOの現在のモードを見事に可視化している。

自身のイメージカラーとも言える「青」を良い意味で裏切り、ポップネスとダークネスを往来する全12曲。リスナーを突き放すようなものは何もなく、むしろDAOKOの精神世界との境界が融解していくような不思議な感覚に陥る。

對馬拓