おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年8月】

おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年8月】

色々な意味で、生きづらい毎日が続く。

社会に目を向ければ悪いニュースばかり浴びせられ、身の回りを見渡しても悲しい出来事ばかりだ。きっとこの状況は好転していく、という淡い期待は打ち砕かれるばかりで、どうにも参ってしまう。

ただ、そうした状況において、音楽が持つポジティヴな作用はこれまで以上に際立ったように思う。音楽がもたらす、ある種の”救い”の感覚。今回紹介する6作品にも、様々な形でそのような力が内在しているものが多い。

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The Japanese House – Chewing Cotton Wool

Label – Dirty Hit
Release – 2020/08/13

英バッキンガムシャー出身のアンバー・ベインによるプロジェクト、The Japanese Houseの新作EP。リリースは、The 1975やWolf Alice、Pale Wavesなどが所属する気鋭のレーベル・Dirty Hitより。

今作も、2019年にリリースし高い評価を得たデビュー・アルバム『Good at Falling』に続き、ドリーミーでエレクトロニックなサウンドに磨きをかけている印象。

特に収録曲「Dionne」に注目すれば、The 1975のジョージ・ダニエルがプロデュースで参加したことが更なる深化をもたらしていると言えよう。加えて同曲ではBon Iverのジャスティン・ヴァーノンをフィーチャーしており、彼のヴォコーダーを使用したヴォーカルが良いアクセントを生んでいるのも見逃せない。

そして何より、余計な感情を全て浄化していくフィルターのような力が、アンバーの歌には秘められている。我々の感覚を鈍らせる様々なノイズで溢れ返ったこの時代において、自然体だった頃の自分に引き戻してくれる音楽として、身体が潜在的に求めてしまうのだ。

 

kiwi – Before you’re gone

Label – Dead Funny Records
Release – 2020/08/05

東京を拠点に活動するシューゲイザー・バンド、kiwi(キウイ)のデビュー・ミニアルバム。

初期のRideを彷彿とさせる突き抜けるような青さと、DIIVなどに代表されるCaptured Tracksのバンドから受け継いだドリーミーで風通しの良い音像が心の琴線を揺さぶる。「Behind The Times」のフィードバック・ギターは本作の大きなハイライトの一つだ。

しかし、決して轟音の一点突破に陥ることはなく、絶妙なニュアンスでまとめ上げた繊細で陶酔感の強いシューゲイズ・サウンドを全編に渡って楽しむことができる。年間ベスト級の完成度と言っても遜色ないだろう。

ちなみに、彼らが所属しているレーベル・Dead Funny Recordsは、Balloon at dawn、Bearwear、I Saw You Yesterday、Waaterなど、新進気鋭のバンドを数多く輩出していることでも知られる。

 

三浦春馬 – Night Diver

Label – A-Sketch
Release – 2020/08/26

俳優・三浦春馬がアーティストとして放つ渾身の2ndシングル。

表題曲「Night Diver」は、辻村有記(ex. HaKU)が作詞・作曲・プロデュースを手掛けた、EDMを基調としたダンス・ナンバー。サビでリズムが変化する一筋縄ではいかない楽曲だが、三浦のヴォーカルも早口で畳みかけたり伸びやかに響かせたりと、夜の海を自在に泳ぐような柔軟さで聴く者を魅了する。前作『Fight for your heart』に比べ、ヴォーカリストとしての表現力が大幅に向上しているのは明白だ。

別れ/喪失をテーマにしながらもネガティヴな感情に押し潰されることなく、むしろアップテンポで高揚感あるサウンドからは苦しみの先の希望を感じる。激しく水しぶきを上げ、もがくように踊る彼の姿は、喪失こそが起爆剤であると高らかに宣言するかのようだ。

また、カップリングには自身で作詞・作曲に初挑戦した「You & I」も収録。否が応でも次回作を期待してしまう。

明けない夜はないと信じたい。

 

Washed Out – Purple Noon

Label – Sub Pop
Release – 2020/08/07

アメリカ・アトランタを拠点に活動するアーネスト・グリーンによるプロジェクト、Washed Out(ウォッシュト・アウト)の4thアルバム。

一時は離れていた古巣・Sub Pop復帰作となった今作は、2011年のデビュー・アルバム『Within and Without』を想起させるチルウェイヴへと回帰しつつ、これまで以上にヴォーカルをフィーチャーした作品に仕上がった。

地中海の海岸線に着想を得て制作された本作は、”現実逃避”をテーマとしている。深くリヴァーブのかかったサウンドは、どこか浮世離れしたアルバムのアートワークも相まって、慌ただしく変化する日常とは無縁の桃源郷に誘うかのようだ。それは”チルウェイヴ”という音楽が元々本質的に持っているポテンシャルを再確認させる。

 

寿々木ここね – FEVER

Label – TRASH-UP!!
Release – 2020/08/19

Lo-Fiドリームポップアイドル・SAKA-SAMAのリーダー、寿々木(すずき)ここねの1stソロ・アルバム。

ジャンルに囚われず様々なミュージシャンによる多彩な楽曲を発表してきたSAKA-SAMA。ソロになってもその路線は引き継ぎつつ、しかしより自由に、自身のルーツとも密接に繋がった表現に身を投じた作品となっている。

疾走感溢れるギターロック・ナンバー「彗星まち」や総天然色ドリームポップ「アクア・タイム」の時点でクオリティの高さに驚かされるが、ラヴァーズ・ロック調の「FEVER」やアンビエント・ダブで攻める「ライティ・ライト」など彼女が幼少の頃から親しんだレゲエやダブの流れを汲む楽曲、さらには本人が大ファンを公言するボ・ガンボスの「魚ごっこ」のガレージロック風カバーまで飛び出す。そして最後は初期Perfumeのような直球アイドル・ポップ「スイート・セレブレーション!」で締める怒涛の展開。

2019年にSAKA-SAMAは寿々木以外のメンバー全員が卒業し、正規メンバーが彼女一人となったことを踏まえると、本作は自身の現在地を見つめ直すといった意味合いもあるのかもしれない、などと勘繰ってみたりもする。また、マスク姿で映る「FEVER(=微熱)」のMVから、コロナ禍と共振する一面も垣間見える。

何はともあれ、一人のアーティストとしての表現の幅広さを再確認できる全6曲となっている。アートワークも素晴らしい。もっと化ける未来しか見えない。

 

17歳とベルリンの壁 – Abstract

Label – Seventeen Years Old And Berlin Wall
Release – 2020/08/05

東京を拠点に活動するシューゲイザー・バンド、17歳とベルリンの壁の4thミニアルバム。

本作は、2015年リリースの『Aspect』から続く4部作シリーズの最終作となる。現行シューゲイザー・シーンを牽引するバンドとして不動の地位を築きつつある彼らだが、意外にも本作が記念すべき初の全国流通盤。

印象的なリフやポップなメロディなど、これまで彼らのアイデンティティとして機能してきた要素はしっかり受け継ぎながら、シンセサイザーを多用しエレクトロ・シューゲイザーを志向した新境地的作品に仕上がっている。2ndミニアルバム『Reflect』で響かせた轟音は鳴りを潜めているが、より繊細で、構築美すら感じる洗練されたアンサンブルは圧巻の一言だ。

混迷を極める現代社会が仄暗い海の底だとしたら、彼らの音楽は海面から僅かに差し込む日の光ではないだろうか。蜘蛛の糸のように細く、それでいて力強い、確かな道標。間違いなくキャリア史上最高傑作。

 

おすしたべいこ