おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年9月】

おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年9月】

残暑で夏の余韻に浸ったのも束の間、すっかり秋めいた今日この頃。過ごしやすい気候となったことに喜びを感じつつ、これから冬に向かっていく寂しさは拭えないものだ。そんな刹那的な季節を彩る作品について、今月も偏愛的に綴っていく。

BBHF – BBHF1 -南下する青年-

Label – Beacon LABEL
Release – 2020/09/02

BBHF(ビービーエイチエフ)が、Beacon LABEL移籍後初となるアルバムをリリース。それぞれ”上”と”下”と名付けられた2枚組全17曲は、北から南を目指す青年の物語となっている。

とは言え、ここで描かれているのは単なる冒険活劇などではない。主人公は日々の生活を送っていく中で、人との触れ合いを経験しながら、やがて精神的な”氷解”を遂げる。このアルバムは誰もが経験するであろう感情を綴った、日常生活における叙事詩なのだ。

Galileo Galilei時代と比べて格段に深化したサウンド・プロダクションからは近年のインディーロックやネオフォーク的な趣向を感じるが、それ以前にメロディが強く、ポップ・ミュージックとしてもしっかり機能しており、誰の心にも染み渡るようなポテンシャルを秘めている。

活動の場をインディーズへ移したことで、伸びやかで自由な活動ができる環境を手にしたBBHF。彼らのクリエイティビティはかつてないほど拡大し、サウンド、歌詞、ヴォーカリゼーション、プレイヤビリティ、コンセプト、アートワーク…といった、アルバムにおけるあらゆる要素が高次元で結実した作品を生み出した。紛れもない傑作。

※詳しいレビューはこちらでも執筆したので是非。
BBHFの夜明け-南下する青年が目指したもの

 

PLASTIC GIRL IN CLOSET – DAWN TONE

Label – SAT RECORDS
Release – 2020/09/23

岩手在住の3人組シューゲイザー・バンド、PLASTIC GIRL IN CLOSET(通称”プラガ”)。国内におけるテン年代以降のシューゲイザー・シーンを牽引し、Total Feedbackの常連としても知られる彼らが、ついに6年ぶりとなるアルバムをリリースした。

石田ショーキチ主宰のSAT RECORDS移籍後初のアルバムとなる本作は、これまで以上にポップセンスを開花させた会心作。「DRAMATIC」や「HEART & SOUL」など、大胆にピアノを導入したサウンド・プロダクションは洗練を極め、彼らのアイデンティティでもある美しいメロディを際立たせており、その解像度の高さには舌を巻くばかり。言うなれば、Base Ball Bearの持つ軽快さや、ストレイテナーの美しいメロディなど、国産ギターロックとも呼応するようなクオリティだ。

シューゲイザーというジャンルは、ある側面では一辺倒なサウンドに陥る危険性も十分にあるが、プラガはその落とし穴を軽やかに飛び越えている。

※現在アルバムのサブスクリプション配信はされていません。

 

nuance – brownie

Label – minima light records
Release – 2020/09/16(サブスク解禁:8/30)

横浜発アイドル・ユニット、nuance(ヌュアンス)の最新作。『town』『botan』に続く”街三部作”の完結編となる。

もちろん”街三部作”自体には様々な考察の余地がありそうだが、何よりポップ・ミュージックとしての強度の高さには毎度毎度驚かされる。クリーントーンのギターが相対性理論を想起させる「sekisyo」、会社員ラップグループ”絶対忘れるな”の志賀ラミーが手がけたラップソング「ヌューミュージック」、クレイジーケンバンドの小野瀬雅生氏が提供したモダンで大人びた「悲しみダンス」など、クオリティは言わずもがな、その振り幅も広い。

そんな楽曲たちを飄々とユルく歌いこなす彼女たちを見ていると、(本人たちが意識していないにせよ)アイドルとしてのある種の矜恃を感じなくもない。7曲という短尺ながら、ブラウニーのように濃厚で深い味わいが凝縮されている。

 

Tapeworms – Funtastic

Label – Howlin Banana Records / Cranes Records / TESTCARD RECORDS
Release – 2020/09/25

フランス出身の3人組シューゲイザー・バンド、Tapeworms(テープワームス)のデビュー・アルバム。

これまでに自主リリースした2枚のEPではオリジナル世代のシューゲイザーに影響を受けたサウンドを鳴らしていたが、本作では一気にエレクトロニックな要素が加わった。そこにはプレイステーションやゲームキューブといった日本のゲーム・ミュージックからの影響があり、チップチューン的なエッセンスをサウンドに上手く落とし込んでいる。また、渋谷系や現行の国産アーティストにアンテナを張ることで枠に囚われない自由な精神を学び、自らの音楽的なスタンスを確立しているのだ。

オリジナル・シューゲイザーへの憧憬は変わらず感じさせつつも、これまで影響を受けてきたものから様々な要素をチョイスし、それらを卓越した編集技術によってクールにまとめ上げている。そんな遊び心に満ちた文字通り”Funtastic”なサウンドは、シューゲイザー・ファンだけでなく数多のインディーロック・リスナーの心を掴むことだろう。

※手前味噌で恐縮ですが、本作の日本盤ライナーノーツを執筆させていただきました。より詳しい解説は、ぜひCDを手にとって読んでいただければと。
TAPEWORMS / FUNTASTIC / ファンタスティック /

 

ラブリーサマーちゃん – THE THIRD SUMMER OF LOVE

Label – 日本コロムビア
Release – 2020/09/16

“可愛くてかっこいいピチピチロックギャル”こと、ラブリーサマーちゃんによる最新アルバム。

タイトルは”ラブリーサマーちゃんの3枚目のアルバム”を意味しているが(そもそも彼女の本名が”愛夏”)、同時に1967年にアメリカを中心に巻き起こったヒッピー・ムーヴメント”サマー・オブ・ラブ”、1980年代後半にイギリスで起きたダンス・ミュージックのムーヴメント”セカンド・サマー・オブ・ラブ”をもじったものでもある。サイケデリックなジャケット・デザインは、まさにそんな音楽的文化と繋がってくる。

しかし誤解を恐れずに言えば、実際にやっていることはとてもシンプルだ。前作『LSC』から4年という歳月の中で芽生えた彼女なりの主義や主張を詰め込みつつも、自身の原体験であるthe brilliant greenや90年代のUKロックへの愛を炸裂させたポップなロック・ミュージックを鳴らすことに徹している。何よりも音楽を奏でることを心から楽しんでいるのだ。その自然体で飾らない、”シンプルにかっこいい”バンド・サウンドが世代を問わず多くのリスナーを惹きつける要因でもあるだろう。

アルバムを聴き終えた時、あなたは気づくはずだ。すでにあなたの中で三度目の”サマー・オブ・ラブ”が巻き起こっている、ということに--。

 

DoZzz – Passage

Label – 赤瞳音樂/Indie Works
Release – 2020/09/01

台湾出身のシューゲイザー・バンド、DoZzzの記念すべき初フルレングス作品。

Skip Skip Ben BenやI Mean Us、U.TA屋塔など、アジア圏の中でも台湾は特に良質なシューゲイザーが多い印象だが、DoZzzはこの作品で一気に最前線へ躍り出た。いやむしろ、30年以上続くシューゲイザーの歴史において、重要な地位を占める存在になったと言い切ってしまいたい。

DoZzzが奏でる轟音は重厚かつ荒々しく、エレキギターの弦が金属だという当たり前の事実を執拗に突きつける。容赦なくガリガリと精神を削るようなサウンド・スケープに目眩を起こしそうになるが、ふとした瞬間に訪れる安寧が美しく、この時間が全く苦にならないことに気づく。

巨大なPassage(=通路)に迷い込んだ僕らは、地殻変動を呼び起こす強靭なリズム隊と、鉄風を竜巻のように吹き上げる轟音ギターを掻い潜りながら、精霊のように優しげなヴォーカルに導かれていく。そこを抜けた時、僕らには何かが残っているのだろうか?

おすしたべいこ