おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年10月】

おすしたべいこ的マンスリーレコメンド【2020年10月】

毎月セレクトした新譜を偏愛的に紹介する「おすしたべいこ的マンスリーレコメンド」。10月は、久々の新作や節目となる作品など、特に心して聴くべきものが多くリリースされたように思う。

RiLF – My Beloved Farewell

Label – Ricco Label
Release – 2020/10/02

matryoshka(マトリョーシカ)のヴォーカリストであるCaluと、Anoice(アノイス)のメンバーによるエレクトロニカ/ポストロック・プロジェクト、RiLFの10年ぶりとなる2ndアルバム。

綿密に構築されたバンド・アンサンブル、壮大なオーケストレーション、そして儚げながらも聴く者を包み込む不思議な温度感を持ったヴォーカルに、揺るがぬ美意識と崇高さが感じられる。

ピアノとストリングスの音色が天から降り注ぐ一筋の光のようにファンタジックな「Never Ending Dream」や、絶妙な歪みが心の琴線を震わせるシューゲイズ・ナンバー「Count4」など、どの楽曲も驚異的な完成度を持ってリスナーに迫ってくるが、やはり特筆すべきは11分超えの大作「Someday We will Find」だろうか。流麗なメロディと寄り添うようなヴォーカル、そして繊細かつダイナミックなギタープレイに圧倒される。Sigur Rós(シガー・ロス)やVARなどのポストロックに対する、「日本からアイスランドへの回答」とでも言うべきアルバム。

 

Jónsi – Shiver

Label –  Krunk Records
Release – 2020/10/02

アイスランド出身のポストロック・バンド、Sigur Rós(シガー・ロス)のフロントマン、Jónsi(ヨンシー)による10年ぶりのソロ・アルバム。

Cocteau Twins(コクトー・ツインズ)のヴォーカリスト、Elizabeth Fraser(エリザベス・フレイザー)が参加した「Cannibal」や、Radioheadの『Kid A』あたりを彷彿とさせるようなエレクトロニカ調の「Kórall」など、アルバム全体のトーンとしては美しいヴォーカルを堪能できるアンビエントなサウンドが胸を打つ作品に仕上がっている印象。

一方で、「Wildeye」や「Swill」で聴かせるテクノ経由のエクスペリメンタルなサウンドが、意外性のアクセントとして機能している点もおもしろく、ソロ作品ならではの表現に触れることができる意欲作となっている。

ちなみに、Sigur Rósは年内にアルバムをリリースすることを予告しており、そちらも否応なしに期待が高まる。

 

Working Men’s Club – Working Men’s Club

Label – Heavenly Recordings
Release – 2020/10/02

UKウェスト・ヨークシャー出身のニューウェイヴ/ポストパンク・バンド、Working Men’s Club(ワーキング・メンズ・クラブ)のデビュー・アルバム。

ドラム・マシンの無機質なビートの上で唸りを上げるギターと浮遊感のあるシンセで爆進するダークなサウンドがとにかく痛快で、フロントマンのSydney Minsky-Sargeant(シドニー・ミンスキー・サージェント)のヴォーカルは若干18歳とは思えないほど妖艶。「New Order化したJoy Division」「テクノを患ったToy」「闇落ちしたHuman League」など陳腐な例えが浮かんでは消えていくが、どれも全く本質を言い得たものではないことは、このアルバムを聴けば一目…いや一聴瞭然だろう。

鉄壁のセットリストとでも言うべきラスト3曲「Cook a Coffee」「Teeth」「Angel」は本作のハイライト。特に「Angel」は終盤でBPMが加速するキラー・チューンで、2分以上続く残響までもが美しく、ライブで盛り上がること必至。

Isolated YouthやAgent blå(アゲント・ブロー)など、新世代のポストパンク・バンドが続々と登場する中、またとんでもない才能が現れてしまった。向かうところ敵なし。

 

Adrianne Lenker – songs / instrumentals

『songs』
『instrumentals』

Label – 4AD
Release – 2020/10/23

NYブルックリン出身のインディー・フォーク・バンド、Big Thief(ビッグ・シーフ)の紅一点シンガー、Adrianne Lenker(エイドリアン・レンカー)による同時リリースのソロ最新2作。その名の通り、『songs』は弾き語り、『instrumentals』は長尺のインスト曲が収録されている。

マサチューセッツの山小屋に移住し、全てアナログ機材でレコーディングしたという本作は、爪弾かれるギターや打楽器の音色、環境音、ヴォーカルで構成されており、アレンジはこの上なくシンプル。それでいて一切凡庸な作品に陥らないのは、やはり彼女の卓越したソングライティングのなせる技だろう。

極限まで研ぎ澄まされたサウンドとメロディは、アンビエント・フォークやポスト・クラシカルの文脈で捉えることができるだろうか。それは、はじめから地球の大自然の一部だったかのごとく、ただそこで鳴っているようであり、彼女の心象風景を何のフィルターも通さないまま純粋に映し出すかのようでもある。アートワークも彼女の祖母であるダイアン・リーが手がけるなど、作り手のパーソナルな意志が隅々まで行き届いた、あまりにも美しい逸品。

 

銀杏BOYZ – ねえみんな大好きだよ

Label – 初恋妄℃学園
Release – 2020/10/21

実に6年半ぶり、新体制後初となる銀杏BOYZの最新アルバム。

前作『光のなかに立っていてね』は、GOING STEADY時代から受け継いだパンク/ハードコア・サウンドから一転、打ち込みを多用したノイズ・ロックに大きく傾倒していたが、今作では「バンド感」に回帰し、本来バンドが持つ爆発力や瞬発力を遺憾なく発揮している。

また、前作でも予兆はあったが、よりシューゲイザーやドリームポップを織り交ぜたサウンド・メイキングとなったのも今作の大きな特徴と言えそうだ。特に、ドリーミーなイントロで幕を開ける「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」、疾走感あふれるシューゲイズ・パンク「エンジェルベイビー」などが顕著であり、今作でプログラミングを担当しているUCARY VALENTINEがトラック制作をした「GOD SAVE THE わーるど」に至っては、The Bilinda Butchers(ビリンダ・ブッチャーズ)とも呼応するドリームポップ〜エレクトロ・シューゲイザーと言っても遜色ないだろう。

しかし何より、このアルバムからは「生への希求」が切実なほど溢れ出している。銀杏BOYZが、峯田和伸が、これまで表現者として提示してきたドロドロした生々しさが、この時代に結実した意味について、あれこれ考える。そして、こんな余裕のない時代に、「ねえみんな大好きだよ」と愛を振りまく。並大抵のことではない。2020年が詰まった、彼らの最高傑作。

 

Andy Bell – The View From Halfway Down

Label – Sonic Cathedral / Tugboat Records
Release – 2020/10/07(日本先行リリース)

UKオックスフォード出身のシューゲイザー・バンド、Rideのギター/ヴォーカルをはじめ、OasisやBeady Eyeなどのメンバーとしても知られるAndy Bell(アンディ・ベル)。これまで数々のバンドで活躍してきた彼だが、意外にもソロ名義での作品は今作が初となった。

元々は2016年のデヴィッド・ボウイの死に触発されてアルバムの制作をスタートさせたというが、パンデミックによるロックダウンの静けさがもたらした一時の安寧や、50歳という人生の節目を迎えたことなど様々な巡り合わせが重なり、アルバムが出来上がっていった。結果、自身の音楽人生を総括するような作品に仕上がっている。

本作の具体的な影響源は、Stone Roses、Spacemen 3、The Beatles、The Byrds、Stereolab、Neu!、Can、The Kinks、The La’s、The Who、Tame Impala…など多岐に渡る。彼の原体験的なものから、同世代や現行のアーティストに至るまで、自身の音楽観を色濃く反映させ、サイケデリックなサウンド・スケープを展開した作品となった。

「シューゲイザー・バンドのメンバーのソロ作品」というある種の先入観を持って聴くと少々驚くことになりそうだが、もちろん決してRideとは全くの別物というわけではない。Rideの最新作『This Is Not a Safe Place』収録の「Repetition」でも見られるようなエレクトロニックなサウンド・アプローチなどは、本作と地続きであることを感じられるだろう。

それにしても、いまだ「途中からの眺め(=The View From Halfway Down)」だと言い切れる彼の創作意欲には、心から敬意を表したいところだ。

おすしたべいこ