アトムからお茶へ--御歳90歳、大野松雄「茶の木仏のつぶやき」を聴いた

アトムからお茶へ--御歳90歳、大野松雄「茶の木仏のつぶやき」を聴いた

例えば、ブライアン・イーノ『Ambient 1/Music for Airports』など、特定の場所やシチュエーションで聴かれる(使われる)を目的に作られた音楽は数多くあります。

酒屋である私の専門分野であれば、最近発表されたシステム7の「Field of Dreams」は秋田と日本酒をイメージした楽曲とのことですし、木村直哲+大山勇実「Sherry Museum」というシェリー酒を題材にした作品もあります。

 

ただし今回取り上げるのはアルコールではなく、お茶のための音楽。2020年9月に発売された大野松雄「茶の木仏のつぶやき」です。

大野松雄氏について

‘‘大野松雄、音響デザイナー。
1930年、東京府神田区生まれ。49年に文学座に入団。
52年にNHK放送効果団に入団するもすぐに退団し、フリーランスの音響効果担当となる。その頃、カールハインツ・シュトックハウゼンの音楽に出会い、「この世ならざる音」を求めて自身も電子音楽を始める。
国産テレビアニメ第1号「鉄腕アトム」(63年)の音響構成など、様々な映画やテレビアニメ、また万博パビリオンの音響デザインにも携わる。’’--「電子音楽 in JAPAN」(著/田中雄二)より抜粋

レコード、CDもいくつか発売されています。
様々な音響仕事を集めた編集盤が多いのですが、78年に『そこに宇宙の果てを見た』という音楽作品も発表しており、コアな電子音楽マニアやメディテーション音楽愛好家に支持されています(私が持っているのは2011年発売の再発盤)。

作風は広義では電子音楽。ただし現代のようなシンセサイザー主体でなく、オープンリールを用いて録音物に様々なエフェクトを施し(テープの回転数の違いによって発生するエコー、ディレイ、フィードバックなど)を再構築する、非常にプリミティブなエクスペリメンタル・ミュージック。

2011年には、彼のこれまでの人生を追ったドキュメンタリー映画『アトムの足音が聞こえる』が公開されました。

 

「茶の木仏のつぶやき」レビュー

 

「茶の木仏のつぶやき」は京都の茶問屋《宇治香園》の依頼により制作されました。

CD付属の解説によると、昭和30年代前半に大野氏が京都を訪れた際に小道具屋で出会った、茶の木を彫って作られた親指大の仏像に着想を得た作品とのこと。お茶というとほっこりした音楽を連想する方も多いかもしれませんが、「茶碗から宇宙へ…」とでも言うような壮大な電子音響が広がります。

1杯のお茶から茶畑へ。そして茶畑を育む自然と地球、宇宙のサイクルへと。しかしそれは全て仏の掌の上の事象…とでもいうような、茶碗の中の世界。まるで朝霧立ち込める茶畑の、1枚の茶葉に滴る雫のようなピュアな電子音の響き。

文筆家・開高健の「朝露の一滴にも天と地が映っている」という言葉を連想しました。90歳になってなおも溢れ出る大野氏の想像力と、壮絶な音像に圧倒されます。

お茶と合わせて楽しむ

ではお茶と合わせてみましょう。
恥ずかしながら、自分用に日本茶の茶葉を買うのは初めてなんです。

なのでこの音源制作の企画元である《宇治香園》のオンラインショップを見て、ファーストインプレッションで興味を持ったこの茶葉を買ってみました。

・「深むし煎茶 ゆたかみどり」(70g)

‘‘なめらかな口当たり、濃厚な味わいを持つ品種「ゆたかみどり」の深むし煎茶です。’’--宇治香園様のオンラインショップコメントより抜粋

「ひと夏越していっそう風味を増したお茶」とも書いてあります。

日本酒でいう「ひやおろし」みたいですね。

先に書いたようにお茶はド素人なので正しい表現か分かりませんが、コクはあるのに透明感がある。ホッとする穏やかでピュアな味わい。

 

裏面に煎れ方も書いてあるので初心者にも優しい。

音が壮絶すぎてほっこりな味わいとマッチしているは言えないかもしれませんが、1杯のお茶のルーツに想いを馳せながら聴くと良いと思います。

ほっこりお茶も良いもんだ

これまで日本茶は特にこだわりを持たず飲んできましたが、今回のCDをきっかけに俄然興味を持ちました。休日の昼間のリラックスタイムはコーヒーでしたが、お茶も良いものですね。若い方がオープンした、新しい感性の日本茶専門店なども増えているようですので、もっと気軽に色々飲んでみたいと思います。

ではまた。

* * *

新発売の「Baird Beer おくひかりグリーンティエール」。静岡県産の煎茶と抹茶を使ったらビールです。お茶とポップの苦みが優しく溶け合っていて、本当に煎茶感覚で飲めるほっこり優しい味わい。おすすめです。

仲川ドイツ