【インタビュー前編】KING AGee(Terra Squad)が語る、シカゴ・フットワークの現在地

【インタビュー前編】KING AGee(Terra Squad)が語る、シカゴ・フットワークの現在地

シカゴ生まれのダンス・ミュージック、フットワーク。そのダンスバトル・クルー、Terra Squad(テラ・スクワッド)のリーダー・KING AGee(キング・エージー)が近年とても精力的に活動している。

2019年より『Terra Dome』というフットワーク・トーナメントを主催し、熱心に若者たちをリードする姿を自身のSNSへ投稿したり、YouTube動画では実際のトーナメントの様子を捉えた映像も観ることができる。そして2022年7月には自身では初の音源リリースとなる『I forgot I can footwork』を発売(肝心の内容もハードコアなフットワーク・バトル・サウンド満載で最高)。

文字通りの「フットワーク・カルチャー」を現在進行形で体現する彼に、日本を代表するフットワーカーの1人、Miki Ishizaka(以下Miki)と共にインタビューを敢行。前編ではKING AGee個人へ向けたオンラインインタビュー、そして後編ではKING AGeeと同じくTerra Squad所属であり、またコラボレーターとして活躍するDJ Coreyを交えたインタビューの前後編でお届けする。

▲左からMikiIshizaka、KING AGee、Ace-up

取材/文=Ace-up、Miki Ishizaka
通訳=Miki Ishizaka

* * *

片方に集中していると両方できることを忘れる時がある。今は音楽に集中しているから「I forgot I can footwork」だなと

Ace-up:アルバムリリースおめでとうございます。ダンサーとして知られているあなたの突然のリリースにはとても驚いたのだけど、リリースするに至った経緯は? 

KING AGee:『Terra Dome』でプレイされない、シカゴを含めた世界中の色々なフットワークの曲をたくさん聴いてみて、ストリート・スタイルであるバトル要素が薄まっているのを感じたんだよね。その後に、*DJ Rashadと作った未発表の曲を聴き返してみたら、それがすごく良くて。自分の周りには音楽仲間もたくさんいるし、シカゴの人が愛するバトル要素があるストリートのフットワーク・スタイルを取り戻したいと思って、2021年12月に機材を買い直して、また音楽を作り出したんだよ。

*DJ Rashad=シカゴの電子音楽集団及びレコードレーベル・TEKLIFEの創始者にしてジューク/フットワーク界を代表するアーティスト。2014年に急逝した。

Ace-up:それでアルバムができたと。

KING AGee:収録されていない曲もたくさんあるよ。機材を買ってから今までの7ヶ月で40曲ぐらい作ったから。アルバムに収録されなかった新曲は*DJ Coreyとリリースするミックステープに収録するよ。

*DJ Corey=ジューク/フットワーク界の大ベテラン・DJ Clientの実の息子で、次世代の代表格。

Miki:40曲! すごいね。

KING AGee:ヘヘ、1曲20分くらいで作るからね。今日もこのインタビューが終わったら曲を作る予定だよ。

Ace-up:アルバムに収録されているのは全部新曲?

KING AGee:アルバム最初の12曲は新曲で、最後の4曲は2012年から2013年にかけて作ったものだね。

Ace-up:アルバムのタイトルが『I forgot I can footwork』(自分はフットワークができることを忘れていた)だけど、フットワークをやっていなかった時期があったの?

KING AGee:なんでこのタイトルにしたかっていうと、まず、自分にとって音楽とフットワーク(ダンス)の両方が大事なものなんだけど、フットワークに集中している間、ふと「あ、自分は音楽もやれるんだった」とか、逆に音楽に集中している時に「あ、自分はフットワークもやれるんだった」とか思い出すような瞬間があるんだよね。片方に集中していると両方できることを忘れる時がある。それがタイトルの由来。今は音楽に集中しているから「I forgot I can footwork」ってこと。

自分は音楽とフットワークどちらかだけに振り切ることはできなくて、(音楽とフットワークが自身の軸にあるという)二面性を大事にしたいから両方やっていきたい。自分の感情や考えていることを消化するために音楽を作って、その曲でフットワークをすることで、自分自身をコントロールして循環させていきたいんだ。

Ace-up:アルバムのアートワークに使われている写真は君とお母さん?

KING AGee:そう。これは14、15歳の時に当時の友達と人生で初めてフットワークのショーをやったんだ。当日お母さんが会場まで車で送ってくれて、ショーは観に行けたら行くね、という感じだったんだけど、本番にはちゃんと観に来てくれて、それがとても嬉しかった。その時に撮った写真だよ。自分にとってターニングポイントとなった大事な思い出。

Ace-up:アルバムについて周りからの反応はどう?

KING AGee:皆がとても良いフィードバックをくれているよ。自分には妻も子供もいて家庭のことには真剣に向き合っているけど、音楽に対しても同じで、そのことは家族も理解してくれている。自分の活動は(周囲に対して)プラスに働いてると思っているから、それを世界に発信して、周りに恩返していきたいね。

『Terra Dome』は参加者に勝つこと、負けたことを経験させるためのバトル・イベント

MIki:Terra Squadから音楽をリリースしたのはあなたが初めて?

KING AGee:いや、TEKLIFEの*DJ Luckyと*DJ PhillやDJ CoreyもTerra Squadでリリースしているから、初めてではないね。DJ Luckyは今ラスベガスに住んでいるんだけど、2024年に大きなフットワーク・トーナメントを一緒に開催しようって話してる。

*DJ Lucky=TEKLIFE/Terra Squadに所属するアーティスト。ビデオ内ドレッドの長髪が彼。フットワーク/作曲/ラップをこなすマルチプレイヤー。
*DJ Phil=同じくTEKLIFE/Terra Squadに所属するアーティスト。シンプルで力強いトラックメイクが魅力。

Miki&Ace-up:おぉ!!

KING AGee:2年ごとに開催予定で、ラスベガスの前に2022年12月にシカゴで開催予定なんだけど、世界中のフットワーカーからオーディションで選ばれた64人が出場できる仕組みにして、若い世代からベテランまで皆が参加したうえで本当の世界一を決定するトーナメントになると。

Ace-up:Mikiちゃん出たいでしょ?
Miki:出たい。笑

KING AGee:俺も出るよ。笑

Ace-up:それはすごい大会になりそう…。Miki:オーディションはいつ?

KING AGee:9月かな。シカゴの人間は対面オーディションで、ほかのエリアの人はビデオでのオーディションを考えている。

Miki:8月にシカゴ行くけど、12月も行こうかな…。

KING AGee:フフ。笑 当日はセキュリティガードを入れたり、警察に連携したりして来場者が暴力や犯罪行為の心配をせず楽しめるように最大限の配慮をするよ。安全が何よりも大事だから。

Ace-up:実現したらここ数年で一番大きなフットワーク・イベントになるね。

KING AGee:そうかもね。日本はどうなの? *『Battle Train Tokyo』とかあるでしょ。

*Battle Train Tokyo=2013〜2017年に東京で開催されたフットワーク・イベント。世界30カ国に支部を持つデジタルメディア『VICE』による音楽メディア『
noisey』でも特集された。

Miki:それは3年くらい前に休止になって、今はやってないんだよ。

KING AGee:え〜。

Ace-up:今はMikiちゃんが主催している『OPEN CIRCLE』が唯一のフットワーク・ダンスのイベントかな。

KING AGee:そっか、それならオーケイ。

Miki:あなたにも是非ゲストで来てほしい!

KING AGee:もちろん。その話は今度また詳しく聞くことにしよう。笑

Miki:前回来日したのはいつだっけ?Ace-up:*TRAXMANの初来日ツアーの時だから10年前だね。

*TRAXMAN=シカゴゲットーハウス〜ジューク/フットワークの偉大なる生き字引き。2012年にKING AGeeと共に初来日した。

KING AGee:日本にいるフットワーク・クルーはいくつあるの?

Miki:Prophecy、THE ERAとCreationの3つ。Terra Squadも必要だよ! 来日する時があったら私の生徒たちからも選考してほしい。私はCreationだけど、生徒全員がCreationではないし、その辺は全然オープンだからさ。

KING AGee:もちろん。

Miki:Terra Sqaudのメンバーになるのは難しい印象があるのだけれど、トライアウトはどんな感じなの?

KING AGee:まずトライアウト料金を支払ってもらって、Terra Sqaudのメンバー50人と受験者10人でバトルしてもらう。うちは絆もすごく重視するクルーだから、そこから交流を深めて、お互いに理解し合ってからじゃないと合格できない。

Miki:メンバーはファミリーなんだね。

KING AGee:そういうこと。

Miki:Terra Squadのメンバーは何人いるの?

KING AGee:うーん…今も現役でダンスしているのは25人かな。そうじゃないメンバーも入れたら100人くらいいるよ。

Miki:100人! Creationよりも多い。

KING AGee:いやいや、現役メンバーはCreationの方が多いよ。

Miki:今と昔を比べてみて、フットワーク・シーンの違いって何かある?

KING AGee:あー、SNS普及で対面でのコミュニケーション機会が減ってしまったことかな。TikTokとかの投稿を経由して、家でフットワークする動画がシカゴを含む世界中でトレンド化して、コロナ禍とかそういった事情で家の中でしか踊れない人にとってはSNSが発散する場になるから、それはそれでいいことだけど。でもそこで発散しきってしまう人は、なかなかオフラインのイベントには来てくれなくて。

『Terra Dome』ではチャリティイベントなんかも主催してるから、協力してほしいと声をかけてみたけど、反応は少なかった。オフラインでのイベントに来てもらって、実際のコミュニティに参加してくれることがより良いことだと思っているから、こういった人たちにも足を運んでもらえるようなイベントを開催していきたいね。

Ace-up: 『Terra Dome』について、2019年くらいから始まったと思っているんだけど、始めたきっかけは?

KING Agee:確かに始めたのは2019年だけど、ずっとやりたかったことではあるんだ。どうやったら*『Battle Groundz』のようなプラットフォームを作れるのか考えていて、始めたのがこのイベントだよ。

*Battle Groundz=かつてシカゴのサウスサイドで開催されていたフットワーク・バトル・イベント。会場の閉鎖により、現在は開催されていない。通称『BG’z』。

シーンを代表する4人による2on2の名戦動画で、赤い帽子がKING AGee

『Terra Dome』は1年に2シーズンあって、シーズンごとに予選とファイナル戦を数回に渡って開催する。コミュニティの人たちに勝つこと、負けたことを経験させたかったから、負けた人は敗者カテゴリに移動させて自分たちに足りないものは何なのかを考えさせたり、参加者が成長するための方法を考えながら開催している。一番大事なのは楽しむことを忘れないってことだけどね。

『Terra Dome』の様子。この動画はMiAHという、若くして亡くなったKING Ageeのライバル的存在だったフットワーカーへのトリビュート・イベント時の動画

Miki:『King Of The Hill』ってイベントもやっているよね?

KING Agee:うん、『King Of The Hill』は『Terra Dome』とは全く別のバトルとして開催している。参加は24人限定で、全員に番号が振られ、1番と2番が最初に戦う、勝った方が3番と、といった感じで、勝った人が踊り続けるサドンデス方式なんだ。

Ace-up:自分以外が開催しているフットワークのイベントはある?

KING AGee:Prophecyが主催している『THE CVGE』とGoon Squadが主催している『Combat Zone』の2つかな。『Combat Zone』はフットワークだけじゃなくて、ほかのダンスもやっているよ。

Miki:『THE CVGE』は参加費の5ドルを払ったら全員と戦うまで会場を出られなくなるから『THE CVGE(=鳥かご)』って言うんだよね。あれは…誰かの家が会場なんだっけ? 

KING AGee:毎回違う場所でやるんだよ。誰かの家とか、どこかの会場とか。

『THE CVGE』の様子。KING AGee率いるTerra Squadと他参加者との総当たり戦

https://www.youtube.com/watch?v=oqMunc8rtGk&feature=youtu.be

▲『Combat Zone』の様子。KING AGee率いるTerra Squadと主催Goon Squadとのクルー対決。

例え綺麗じゃなくても、「何か」を表現できているダンスを

Miki:今度*CFologyではレッスンをやってくれるよね。どんな内容になるの?
*CFologyフットワーク初のオンラインプラットフォーム。定期的にオンラインでのレッスンを開催している。

KING AGee:難しいムーヴを教えるよ。笑 シカゴ以外のフットワーカーは習ったことをそのままやっていて皆同じに見えてしまうから、そうなるようにはしたくない。パーソナリティが人それぞれであるようにダンス・スタイルもそうあるべきだよ。習ったムーヴがあればそれをマスターして自分用に変えたりとか、かっこよくできればできるほどそれが長所になるから、スタイルを学習するクラスにしたいかな。

Miki:楽しみにしてる。あなたのフットワークの先生って誰だったの?

KING AGee:独学だったから先生はいないよ。友達同士で教え合ってた。自分のスタイルはアグレッシヴだって周りに言われるけど、例えばゆっくり動いたとして、それを自分のアグレッシヴなスタイルにどうやって落とし込むのかとか、とにかく自分でテクニックやスタイルを磨いたんだ。自分がフットワークを始めた頃は、各チームのスタイルっていうのは、秘密にされている情報で知ることができなかったからね。

シカゴの人は昔も今も教えること、教えられることに対して積極的じゃなくて、例えば10人くらいが誰かに教えてほしいと頼んだとしても、そういった人たちは自分たちのことしか考えていないから教えない。クルーは助け合うものだから、そのためには強力な個性が必要なんだよ。教わったことをただ真似する人たちを俺は評価しない。綺麗じゃなくても、何かを表現できているダンスを評価する。今はオリジナリティ溢れるフットワーカーっていうのがすごく少ないね。

Miki:じゃああなたの考える、オリジナリティ溢れるフットワーカーって誰?

KING AGee:あー、それはシカゴで?

Miki:シカゴも、ほかの国も含めて。

KING AGee:シカゴだと、HaVoCのJron、CreationのPause Ediie、TalibanのCurtis、GoonSquadのDevin、Prophecy のAceyだな。シカゴ以外だとCreationのKelliだね。彼女はコントロールに優れていてアグレッシヴなスタイルで良いと思うよ。

Miki:最後に、今後の展望と若い世代へのメッセージがあれば教えて。

KING AGee:次世代のフットワーカーは順調に育ってきていると思う。彼らにはリスペクトや謙虚な気持ちを持ち続けてほしい。いつも『Terra Dome』を開催する前に、自分を含め同じコミュニティのほかの人と交流して、お互いを理解し、リスペクトする時間を持つのを目的としたプレパーティを開催しているんだ。トーナメント当日はなかなかそんな時間取れないからね。常に皆と対話していたいんだよ。今後の展望は…シカゴのフットワークと世界が考えるフットワークを一致させていくことかな。

Ace-up:ありがとう、今後の『Terra Dome』の発展とKING AGee個人の活躍を楽しみにしてる。
Miki:今日はインタビューさせてもらって、多くのことを学ばせてもらった。ありがとう!

KING AGee:こちらこそ。

* * *

RELEASE

KING AGee『I forgot I can footwork』

レーベル:BEATDOWN HOUSE
リリース:2022年7月1日

1. King Agee ft Dj Corey-Streets of Rage
2. King Agee ft Dj Phil -I DOOOOO
3. King Agee-Watch Out U N Da WAYY!!!
4. King AGee-TS Hoe 2k22
5. King Agee ft Dj Corey- Dis Bishhh
6. King AGee ft Dj Solo-Who wanna Battle?
7. King Agee -IZ u COOL?(issa Party)
8. King Agee ft Dj Phil-bussa 2.0
9. King AGee-Where yo Basics @
10. King AGee ft Dj Acey -Digital Vibez
11. King AGee ft Dj Corey-Meet me by DA Speakerz
12. King Agee-I got Heat
13. King Agee-Bellz 2k11
14. KIng Agee-Warning!!
15. King Agee ft Dj rashad -Lit City
16. King Agee-So Eazyyy 2011

bandcamp:
https://kingagee.bandcamp.com/album/i-forgot-i-can-footwork

 

musit編集部