所有欲の森〜缶詰×カセットテープ〜
どうも、酒屋の仲川です。10月10日は「缶詰の日」なんですよ。ということで今回は缶詰の話(注:音楽コラムです)。
皆さんはどんな時に缶詰を食べますか? 帰り道にコンビニで買っておつまみに。健康のために鯖缶を。登山時の携行食に。非常時の保存食に。
僕はですね、一人暮らしでお金がない時にサンマ缶をよく食べていました。基本いつもお金がなかったのでほぼ毎日食べてました。あといなばのタイカレー缶もよく食べてましたね。毎日毎日色々な缶詰を食べ続けたら、ふと「あれ?これの感覚何かに似ている」と思いました。
そう! カセットテープ!
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カセットテープの話
皆さんにとってカセットテープの良さってなんですか?
CDやアナログ盤、ダウンロードやサブスクリプションなど様々なフォーマットや聴き方がある中で、カセットテープの良さとはどんな所にあるのでしょう。
①見た目が可愛いので所有欲が満たされる。しかもCDやアナログ盤に比べてかさばらない。
②再生する時のガチャって音や感触が良い。
③音に温かみと角が取れた丸みがある。しかも独特のブースト感が出る。
ほら! 全く一緒だ!
え? ちょっと何言ってるかわからないって?
仕方ない、一つずつ説明していきましょう。
①見た目が可愛いので所有欲が満たされる

イラストの蟹と実写の味噌のバランスがキュート! コンビニに行くと、白むすびとセットでついつい買っちゃいます。カセットは東京のパワーポップバンド・alicetalesの1st。多分蟹味噌を食べてるイラストなんだと思います(嘘)。
これはそのまんまですね。
スーパーやコンビニで売っている大抵の食品は常温に半年も放置しておいたら腐るか、そうでなくても賞味期限は過ぎてしまうでしょう。しかし缶詰なら心配ご無用。
なんせ期限が長い(日本国内で売られているものなら大抵出荷から2年程度)。しかも理論上は半永久的に腐らない(とはいえ、期限を過ぎたものを食べる際は自己責任でお願いします)。しかもパッケージにこだわっているものが多く、手のひらサイズなので集めたくなる。食品なのに保存が効くから所有欲が満たされる!
地方に行くとご当地缶詰なんかもあって、コレクション欲をくすぐられてしまいます。しかもかさばらないからついつい買いすぎちゃいますよね。
②再生する時のガチャって音や感触が良い。
カセットデッキのオープンボタンを押して、蓋をパカァーっと開けてカセットを入れてから閉める。そしてグイっと再生ボタンを押し込むとガッチャっという音とともにカセットが再生される。ただ音楽を聴くための、まるで儀式のような作業。これが良い。

茨城県の高木商店から出ている、「ねぎ鯖」シリーズの塩だれ味。ちょうどカセットサイズだ! 私はこの長方形タイプの缶を開ける感触が一番好き。カセットは『Souls on board』。ネットでも詳しい情報はあまり出てこないけれど現代芸術家で、この音源はインスタレーションに使われた音楽を収録したものらしい。元ワイヤーのブルース・ギルバートが1曲参加してます。
かたや缶詰。手鍋に水を張り火にかける。沸騰したら火を止め缶詰を入れる。数分経ったら缶詰を取り出し、火傷しないようにプルトップに指をかけてガチッ! カパァーっと開缶する(このタイプはイージーオープンエンド、略してEOEと言います)。
海外のトマト缶ならガシャ!ガシャ!と缶切りで開けていく。
まさに儀式! しかも開けた缶詰にギッシリと食材が詰まっているのを見た時の感動! もとい缶動!!
③音に温かみと角が取れた丸みがある。しかも独特のブースト感が出る。
音楽、特に録音やトラックメイクをする人たちの間で使われる「コンプレッサー(略してコンプ)」という用語があります。コンプレッサーとはエフェクターの一種で、音の強弱の差を縮小する効果があります。
ざっくり言うと「入力の強い音は抑え、入力の弱い音は増幅」して音を整える機材(効果)です。なんとカセットテープに録音するとこのコンプに似た効果、通称「テープコンプ」という効果が得られるのです。そして音の圧縮だけでなく、独特の温かみと角が取れたような丸みのある音になる。
かたや缶詰。例えば鯖の味噌煮缶。
朝早く、港で水揚げされた脂の乗ったピッチピチな新鮮な鯖が漁港近くの缶詰工場に運ばれる。それを作業員の方が素早く切り分け、新鮮なうちに綺麗に缶の中に詰め調味液で満たす。すぐに蓋で密閉され、熱湯の中で加熱殺菌と調理が行われる。
そして数ヶ月、もしくは1年程度熟成されてから出荷される。その頃にはもう缶の中で鯖の身の中にしっかりと味噌の味が染み込み、青身魚のDHAたっぷりの脂と相まってまろやかな味になる。そして時間を経るごとに旨みが増幅される。
まさに、これぞ缶詰のテープコンプ!

2019年時点で私が最も推している鯖の味噌煮缶「高木商店 寒さば 味噌煮」。300円前後と比較的安くて脂のり良し、臭みなし、絶妙な味付け。カセットは岐阜のレーベル・obake koubouからリリースされた、CorpoparassitaとSalmonellaのスプリット。コラージュ・アートワークも同封されてる、トータルで楽しめる作品。
カセットテープ人気は今や子供にも!
少々強引に話を進めてきましたが、缶詰もカセットもどちらも真面目に集めてみると結構面白いんですよ。
缶詰は日本では明治時代に輸出用の海産物の加工食品としてスタート。食材の輸送が未発達の時代には食卓でも重宝されましたが、生鮮食品の輸送技術の発達するのに伴い、近年では出荷量が減少していました。ところが東日本大震災からの防災意識の高まりで保存食として再び注目され、同時に「KK缶つまシリーズ」などの高級なおつまみ缶詰や缶詰バーなどのブームもあって、近年人気を取り戻しています。
かたやカセットテープ。
MDやMP3プレーヤー出現以降、演歌と一部のノイズや音響系以外ではほぼ絶滅状態だったカセットテープでの新譜リリースが、徐々にインディー・ロック・バンドを中心に復活し始めたのが約10年前。今では日本でも専門レーベルやショップが出来るほど再認知されています。
その波は今や子供の間でも!

日曜朝9時、テレビ朝日系で放送されている令和最初の『仮面ライダー』シリーズ、『仮面ライダーゼロワン』。その変身アイテム「プログライズキー」! どう見てもカセットテープでしょう。
しかも横のボタンを押すと必殺技音声が流れるんですが、技の名前が「撃ちまくまくりすティ」。ヴィジュアル系で青春を謳歌したお父さん世代を狙い撃ちですね。
ということで皆さん、撃ちまくまくりすティ…ではなく、La’cryma Christiの名曲「Forest」を聴きながら少々強引にこのコラムをおしまいにします。
ごきげんよう。
仲川ドイツ
