モラトリズム音楽の話──andymori/台風クラブ/はっぴいえんど

モラトリズム音楽の話──andymori/台風クラブ/はっぴいえんど

出勤日には聴かない音楽がいくつかある。

聴くと平日に動物園に行きたくなるから。学生時代に戻りたくなるから。コンビニでバイトをしたくなるから。平日の夕方に5時間くらいファミレスで駄弁りたくなるから。モラトリアムが恋しくなるから。

モラトリアム」とは、猶予期間を意味する。心理学では「青年が社会で役割を引き受けるようになるまでの猶予期間」のこと。

私は成人して社会に組み込まれた、年金も健康保険も家賃も光熱費も毎月払っている、立場だけは立派な大人である。モラトリアムは遠い過去の話。が時々、モラモラすることがある。

というわけで、そんな時にぴったりな、モラトリアム感たっぷりの音楽=「モラトリズム音楽」の話をする。ところでモラトリズムって何?

①andymori

どの楽曲もそれなりにモラッているけど、特に「ベンガルトラとウイスキー」はすごい。

大体なんなんだ、ベンガルトラとウイスキーという組み合わせは。平日の動物園で缶ビール飲んでるだろ。意味もなくやたら天気がいい平日の動物園で。いやビールじゃなくてウイスキーなのか。安いウイスキーか。2日酔いなのか。丸1日無駄にしてしまったのか。

andymoriのモラトリアム臭は(アンモニア臭と空見するな)、仄暗い部分から特に濃く匂う。

やることがなくて、でもやらなきゃいけないことはあって、あーあ、かったる。あのベンガルトラ、分かったような顔でウロウロウロ檻の中。あのバンドの新譜と牛乳を買いに部屋をでたけれど。夕暮れの井ノ頭公園でコーラの空き缶蹴飛ばして。渋谷道玄坂風俗の扉押した。

②台風クラブ

4畳半の部屋。地方の大学生。中古の安いギター。車は持っていないけど免許は持っている。煙草吸って授業あんま出ない。出ても寝てる。たまに起きてる。サークルは出たり出なかったりしてる。

という感じ。特に私が好きなのは「42号線」。

以下、歌詞。

〈春がきたら海へ行こうじゃないか 君のおやじの車を借りて
小銭を集めてガソリン入れて 田舎の一本道を南へ飛ばす〉

おやじの、車。小銭を、集めて。南へ飛ばす。なんてことだ。フルコンボ。ちなみにメロディーもぽやぽやと浮かれていて陽気。夏じゃなくて春に海に行く、というところがやや根暗っぽくて良い。

でもこれを出勤途中に聴くと、何もかも投げ出して南へ飛ばして海に行きたくなるので危険。しかし大好きな曲。

③はっぴいえんど

これはマジ。飛ぶぜ。モラりすぎて。今更ながら、モラりすぎるっていうとモラハラしてるみたいだけど、そうではない。

まあどの曲も「社会で生きてます?」という感じがするんだけど、1つ選ぶとすれば「はいからはくち」。

ぼくははいから、血塗れの空を玩ぶきみとかこおらを、の、ん〜でる。きみははいから、唐紅の蜜柑色したひっぴー、みたい。

これが全てです。特に説明することはありません。

モラトリズム音楽のすゝめ

モラトリズム音楽は他にもたくさんある。私の中だけでも、Chara、ゆらゆら帝国、かさきさいだぁ、カネコアヤノ、PUFFY、踊ってばかりの国、エトセトラエトセトラ。

聴きたくないとかなんとか言ってきたけど、でも、休日にはこれらの音楽を聴きたい。聴くだけで気が抜けてモラトリアム気分になれるこれらを。労働への活力になる楽曲と同じくらい大事だ、少なくとも私には。

本当は、大人になったからって遊べないわけでも、自由な時間がなくなるわけでもない。一生全力モラトリアムは無理でも、1日8割モラトリアムならできる。

普段社会人としての形を保って頑張っているんだから、時々時間の流れをゆるめて限定のモラトリアムに浸かってもいい。昼から酒を飲んでもいいし、1日漫画を読んでも、寝ていても、夜に酒飲みながら散歩してもいい。ちゃんとしなくてもいい。

そういう時に、そばで歌ってくれる音楽が自分の中にあるというのは素敵なことだ。音楽って良いものだな、と思う。良いものなんだよ。それでハッピーエンドなんだ。ハッピーエンドなのさ。LOVE ME OH OH!

鮭いくら