【金曜日の編集部】2022年5月27日/美しく切ない、リフレインの重み

【金曜日の編集部】2022年5月27日/美しく切ない、リフレインの重み

musit編集部による1週間の振り返りと、所属ライターが週代わりでお送りするウィークリー・コラム。

編集部・對馬より

毎月あっという間に過ぎ去っていく一方で、5月はいつもの月より長く感じているのですが、果たして気のせいでしょうか…。それはGWがあったからなのか、(ありがたいことに)かなり予定が詰まった濃いめの日々を過ごしているからなのか、とにかく、おそらくネガティブな事象ではないだろうと思います。今月末、そして来月以降と、何らかのお知らせをいくつかできる予定ですので、気にかけていただければ幸いです!

WEEKLY COLUMN

美しく切ない、リフレインの重み

◯文=安藤エヌ

今週の「金曜日の編集部」コラムを担当する、安藤エヌです。

最近、宇多田ヒカルの曲をよく聴きます。彼女の歌う言葉はえもいわれぬ詩情の香りに溢れていて大好きなのですが、「真夏の通り雨」「初恋」などを聴いていて気付いたことがありました。それは、何度も同じ言葉を繰り返す「リフレイン」が印象深く耳に残る、ということです。

〈ずっと止まない 止まない雨にずっと癒えない 癒えない渇き〉

〈I need you I need you〉

リヴァーブ、ないし共鳴のように繰り返される言葉は、聴く者を深い精神世界へと誘っていきます。イメージするのは雫が水面に落ち、波紋を作り、段々広がっていく光景。宇多田ヒカルの「リフレイン」はそういった、抽象的でありながら美しいイメージを想起させる力を持っているのではないかと思います。

以前、サカナクションの「さよならはエモーション」MVに対して考察した文章を書いたことがありました。

この楽曲でも「リフレイン(反復)」は印象的で、MVでは山口(Vo. Gt.)がカップを口に運んだりボールを投げたり、何度も同じ動作を繰り返す姿が描かれています。私はそれを不思議に思いながらも、必ず何か意図があると思い、自分なりに噛み砕き解釈しました。

そうして新たな気付きを得ました。「さよなら」「愛してる」「またね」……私たちは日々、言葉を交わして人と関わり合っています。そんな日常で、何度も同じ言葉を繰り返す場面というのはどれだけあるだろうか、という逡巡が私の中に生まれました。それだけ質量のある、重みのある想いを、私たちは現代においてどれだけ抱けているのだろうか、と。

それが例えば手紙だったら、一行に足らず二行、三行と同じ言葉を書き連ねる。別れようとして引き止め、また同じ言葉を投げかける。そういったシーンに今、生きているうちにどれだけ出逢えるだろうかと思いとどまったのです。

言葉の重み、言葉の意味。言葉に込められた心。宇多田ヒカルやサカナクションの音楽は、そういったものを思い出させてくれたように思います。

繰り返し伝える、ということ。それは願いのようであり、遠くからシグナルを送るかのような美しく切ない表現なのだ、と感じる音楽体験でした。

musit編集部