【金曜日の編集部】2022年6月17日/僕とレコード Vol.4
musit編集部による1週間の振り返りと、所属ライターが週代わりでお送りするウィークリー・コラム。
・【レコメンド】THEティバ『On This Planet』(2022)──カナダのインディー・シーンやSF映画への愛を感じる自由奔放な音楽
・エレクトロ・ポップが魅せる熱狂の狭間で──Metronomy at Alexandra Palace
・【短編】What’s the Frequency, Kenneth?
・ゴミ溜めとウイルスに満ちた世界で愛を叫ぶ──mizuirono_inu『TOKYO VIRUS LOVE STORY』
編集部・翳目より
6月最初の週末はFRIENDSHIP.が主催するサーキットイベント『SSR2022』へ。先月アルバムをリリースしてから注目していたゆうらん船と青木ロビン率いるdownyを観るため渋谷の端と端を徒歩で横断(Spotify-O系列ではない会場が設定されていたので結構歩いた…)。日が暮れるなり、下北沢へ移動してぺんぎんの憂鬱企画へ。久々の長時間起立拘束に腰をいわせましたが、とても刺激的且つ心が浄化されていくような…良い1日になりました。
私事で恐縮ですが、先日無事に誕生日を迎えました。社内の女の子からはホットアイマスクを、近所の飲み友達からはビアグラスを、映像制作の仕事に関わる知人からは『パルプ・フィクション』と『時計じかけのオレンジ』のパンフレットを…と三者三様にお祝いの品を貰い嬉しさ倍増。20代後半の目標は「何もないところで躓かない」。無論、人生においても。
WEEKLY COLUMN
僕とレコード Vol.4
◯文=Goseki
こんにちは。ライターのGosekiです。「金曜日の編集部」にてコラム「僕とレコード」を不定期連載させていただいています。
Vol.3に引き続き「レコード屋編」ということで、僕がディスクユニオンで働きながら出会った(変な)店員やお客さんの話を怒られない程度に書いていこうと思います。
今回は忘れられないお客さんについて。僕は働き始めてすぐの頃に「お茶の水の細野晴臣」に出会いました。
ディスクユニオンにいらっしゃるお客さんは変わった方が多いです(いきなり怒られるかな…)。毎日来店しては100円のヒップホップを買い漁るラッパーや、中古音楽雑誌をディグる内田裕也似のロックなオジさま、レトロ特撮映画を愛する怪獣オタクなど、総合ジャンルのお店だからこそのコアな客層に愛されていました。
そんな魑魅魍魎集う中、彼は現れました。
その人は黒いロン毛でやせ型で、ちょび髭を生やして、この後『HOSONO HOUSE』のジャケットの撮影でもするかのような格好をして僕にこう言いました。
「領収書をくれ、宛名は細野晴臣で」
これだけで十分笑える話なんですが、当時、恥ずかしながら僕はまだ細野晴臣もはっぴいえんども知らなかったため、何の迷いもなく言われた名前で領収書を書いてしまい、細野さん(仮)はひどく怒りました。「細野晴臣を知らないでこんなところで働くな!!」と怒鳴られたのを覚えています。
そして次の日、彼はまた僕の前に現れました。
今度は何を言われるのか、昨日の続きをネチネチ言われるのか、と思い身構えていると、細野さん(仮)は僕に私物である数枚のCDと1冊の本を渡して、こう言いました。
「返さなくていい、ここで働くならこれくらい知っておけ」
ぶっきらぼうにそう吐き捨てると細野さん(仮)は帰っていきました。そしてそれ以来、僕が彼に会うことはありませんでした。
あの時いただいた、はっぴいえんどの『風街ろまん』、細野晴臣の『HOSONO HOUSE』、大瀧詠一の『LONG VACATION』、鈴木茂の『BAND WAGON』、そしてはっぴいえんど特集の『レコードコレクターズ』は今も大切に持っており、どれも僕を構成する上でかけがえのないアルバムとなりました。
良い話、のようにも思えますが、当時の僕にとっては意味も分からないし、気味も悪いので、かなり恐ろしい思い出でした。それでもちゃっかりCDはもらっちゃうあたり、僕らしいというか、良い度胸していると自分でも思います。まあ、音楽に罪はないし、本当に良い作品だったので…。もし、まだ細野晴臣を聴いたことのない方がいらっしゃいましたら、ぜひ、お勧めします。
お茶の水で出会った細野晴臣さん、今もどこかで元気にやってるのでしょうか。
あの時は貴重な体験、そして音楽との出会いをさせていただきありがとうございました。1つだけ伝えたいことがあるとすれば、
偽名で無駄に領収書を切る行為はおやめください。
ということです。
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musit編集部




