【金曜日の編集部】2022年7月8日/奥深きクローズドフェイスリールの世界

【金曜日の編集部】2022年7月8日/奥深きクローズドフェイスリールの世界

musit編集部による1週間の振り返りと、所属ライターが週代わりでお送りするウィークリー・コラム。

編集部・對馬より

突然ですが、最近改めて聴き返す中で歌詞を再確認し、感銘を受けた楽曲を紹介します。

〈よくできた腕時計のように
虚しさをばら撒き続ける針を
君はその華奢な腕で
簡単に止めちゃうんだね〉

Analogfishが昨年リリースしたアルバム『SNS』に収録された「うつくしいほし」という楽曲です。〈君〉との生活というミクロ的な描写をしつつ、一転してサビでは〈遠くから見ればうつくしいほし〉とマクロ的な視点へと移行し、実はこの生活は〈うつくしくない〉と暗に示すような、しかし一概に不穏とも言い難い、そんな楽曲なのですが、写実的でありながら少しファンタジックなイメージもある上記のフレーズに私はやられてしまいました。救いがあるし、針を止められるのは一時的だとしても、そこには刹那的なうつくしさがあると思うのです。

この楽曲には基本的に「君と僕」しか出てきません。そういう意味では構造的にセカイ系のような印象もありますが、そこに〈遠くから見れば〉という俯瞰的な要素が加わることで、「君と僕」だけの話にはとどまらない、より大きなテーマが浮かび上がってくる気がします。春ねむりさんもインタビューで「『セカイ系以降』というものについて考えなければいけない」と仰っていましたが、そういう話にも繋がるのでは?と、なんとなく考えたりしました。

ちなみに『SNS』はマジで良いアルバムなので是非聴いてほしいです。全曲良いですが、特に「Yakisoba」「さわらないでいい」「うつくしいほし」の流れが素晴らしいので。

と、ひとしきりAnalogfishの話をしたところで、仲川さんによる釣具のコラムへとバトンタッチします。魚繋がりです。

WEEKLY COLUMN

可愛くて実用的。奥深きクローズドフェイスリールの世界

◯文=仲川ドイツ

やっと週末。皆さま、1週間お仕事ご苦労様でした。最近はアレンジレモンサワーとビザールプランツを他人に押し付けることにハマっている仲川ドイツです。ちなみに明日(土曜日)も仕事です。

さて。前回のコラムを担当した際に「次回は狼信仰の話を……」と書きましたが、ちょっと気が変わって今回は釣り道具の話を。

コロナ禍で他人と距離を取れるアウトドア趣味として、BBQやキャンプと共に盛り上がっている釣り。周囲を海に囲まれ、川や池も多い日本は、世界でも有数のマニアックな釣り文化大国でもあります。

魚を釣るための技(釣技)だけでなく、日本人特有の趣味の道具とはいえ細部までとことんこだわる精神性と手先の器用さによって産み出された釣りの道具(釣具)は、単に魚を獲るという機能を超えた工芸品であり、日本が世界に誇る釣り文化の1つとも言えます。もはや私も、釣りが好きなのか、道具が好きなのか、自分でも分からないくらい釣具に入れ込んでいる1人であります。

今回は我が家の数ある釣具の中でも、一般的には日の目を見ないであろうカテゴリー「クローズドフェイスリール」(※スピンキャストリールとも呼ぶ)をご紹介します。

クローズドフェイスリールにハマったきっかけは、あのミュージシャン

リールというのは釣り糸(ライン)を巻く道具。クローズドフェイスタイプは少なくとも現代の日本では非主流のリールです。

このリールを使い始めたきっかけは中学1年の時にイワナ釣りに連れて行ってくれた方の進言なのですが、「カッコイイ道具」としてハマったのはこの方の影響でした。

当時Scudelia Electroとして活動していたミュージシャン/プロデューサーの石田ショーキチさんです。テレホンショッキングでタモさん相手にクローズドフェイスリールの魅力を説くショーキチさん。自身の釣りに対して厳格なルールを設けるショーキチさん。カッコイイ大人の釣り師として、TVで観たその日から私の心の中で勝手に釣りの師匠とさせていただきました。

ショーキチさんはこのクローズドフェイスリールをメインに扱う釣具店『Hello the Masking Face』をやっていました。今もサイトは残っていますね。

ショーキチさんが番組の中でも力説していますが、クローズドフェイスリールは可愛いのも魅力の1つ。私の所有するコレクションの中から、今回は国産に絞ってご紹介しましょう。

Abu Garcia 1044

釣りをする人は「Abu Garciaってスウェーデンのメーカーでしょ?」と思うかも。確かにそうなんですが、これは80年代に愛知県内の工場でOEM生産していた、れっきとしたMADE IN JAPAN。

ABU時代から続く同社のクローズドフェイスリールに共通した頭でっかちの可愛らしさを、80年代スポーツカーにも通ずるような直線的デザインとブラックボディが引き締める、少し歪なルックスが魅力。重いという点を除けば現代でも実用性は結構高いです。

日工産業株式会社 アングラーリール カッパー7 #507

何十年も前に釣具製造から撤退した日工産業株式会社という東京の町工場メーカーが製造。クリアブルーグレイの大口径ベルカバーがとってもキュート。ハンドルなしのジャンク品をリサイクルショップにて超特価で購入。いつか復活させたいと思っています。

メーカー不明 Phantom MIRACLECAST #5B

メタリックブルーが可愛いこのリール。本体にメーカー表記がないので詳細は不明ですが、ebay等でリサーチした情報から、60〜70年代前半に日本のDAIWA(現グローブライト)がOEM生産し、アメリカのPfluegerが販売していたものだと私は推測しています。

戦後日本の釣具メーカーは海外メーカーのコピー製品、要はパクリ製品を多く生産して、進駐軍相手に販売したり、輸出している企業が数多くありました。その中で認められた一部のメーカーが海外メーカーのOEMを製造しつつ、技術を自社ブランドに応用し、80年代には欧米メーカーに負けない製品を世に出しました。

こういった点はもしかしたら国産楽器メーカーの歴史と近いかもしれません。

可愛いと言えば

ね? クローズドフェイスリール可愛かったでしょ?

可愛いと言えば。私の心の師匠、石田ショーキチさんがプロデュースするガールズ・グループ、まちだガールズ・クワイアですよ。

スリリングでスピーディな楽曲に彼女たちの売りである絶妙なコーラス・ワーク。銀河鉄道の夜を下敷きにしたキュンとさせられる切ない歌詞。大サビ前からのゾクゾクさせる展開は息もつかせぬほど。ショーキチさんすごい。

と、少々強引に音楽話で〆てみました。毎度言いますが、musitは音楽メディアですからね。次回こそは「狼信仰」の話をするぞ。

では、良い週末を。

月刊ロッド・アンド・リール 2000年1月号

※注:石田ショーキチさんを勝手に心の師匠と呼んでおりますが、とあるレコーディング現場にお邪魔した際にご本人にお会いして、あのテレホンショッキングを観ていかに影響を受けたか、スピッツの数あるアルバムの中でショーキチさんプロデュースの『ハヤブサ』が特に好きなことをお伝えしました。そしてレコーディングでの妥協を許さない姿勢と判断の速さに「プロってすげぇ!」と、とても感動しました。その瞬間に心の師匠から勝手にリアル師匠にさせていただきました。その節はありがとうございました。

musit編集部