カメラが回りアコースティック・ギターの音色が鳴り響いた瞬間、現場に居合わせた誰もが「風」が吹き抜けていくのを感じた。春の陽気に包まれながら収録を行なったフジタのライブ映像は仕上がった『musitTV Vol.5』の動画からも分かる通り、例えメディアを通していても、「あなた」に響くことを祈りながらストレートに色鮮やかなエールを送る。
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フジタはパンデミック渦中の2021年頃からめざましくチケットやCD売上においてセールスを記録し、駆け足で若い世代のヒーローになりつつある気鋭の存在だ。バンドに劣らないパワフルな演奏と、目が覚めるような聴く者の心を共振させる歌声。シンガーソングライターという形態ながら、まるで1人演奏ではないようにも見紛えてしまうほどの存在感。そこから紡がれる〈主人公らしく胸を張れ　眠れない夜の彼を救ってくれ〉（エイプリル）といった、己の弱さを否定するのではなく「救った」上で新たな道を拓く歌詞もまた、彼女自身の世界を拡張し、我々リスナーがフジタの楽曲をお守り代わりにしたくなる主たる要素だろう。
小規模スペースで大勢の撮影班を前に緊張した面持ちだったが、演奏が始まってしまえば持ち前の歌声と共に場を引き締め、撮影班や他出演者の目を奪っていく。先月リリースした軽やかでエレクトロニックな新曲「グッドラックが聞こえない」を皮切りに、彼女は驚異の7ヶ月連続リリースを宣言。その若き才能と類稀なポテンシャルに迫った今回のインタビュー、是非動画と合わせてお楽しみいただきたい。
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──フジタさんは2021年6月にライブ会場限定とタワーレコード渋谷店限定でCD販売を行い即日完売を記録、同世代を中心に多くのリスナーへ寄り添うシンガーソングライターとしてご活躍されています。まずは、フジタさんが今の「シンガーソングライター」という形態に至るまでの経緯を教えていただけますか。
音楽を最初に楽しいと感じたのは中学1年生の時、ちょっとした好奇心で入った合唱部のボイストレーニングでした。顧問の先生のアドバイスで自分が思ってもみない声が出て、歌うことが途端に好きになった私は、伴奏として祖母の家にあったギターを練習し始めました。
そのうちに音楽でご飯を食べたいと思うようになり、有名なアーティストを参考にしようとすると皆曲を自分で作っていたので、「私も作ろう！」と簡単な気持ちでソングライティングの道に足を踏み入れました。
──フジタさんの楽曲を聴いていると、匂いや色と共に学生時代の記憶が蘇りますが、それは「しんみりと浸るような懐かしさ」よりも「心に風が吹いた時の青さ」に近い感覚です。フジタさんが綴る歌詞の節々で見られる、楽曲の中の主人公たちの会話は、フジタさん自身が当時考えていたことが書かれているのか、それとも大人になったフジタさんが今伝えたいことを歌詞に起こしているのか、または違う誰かからのメッセージを代弁しているのか…教えてください。
曲の主人公たちが喋っていたり過ごしている場面を想像した時の会話を採用しているつもりです。ですが、おそらく自分の考えていたことや経験、思い出も所々にあると思います。
大人になった自分からのメッセージというよりは、その当時の自分たちを鼓舞するようなイメージで書いています。
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──先日、ご自身のTwitterで「フジタカコはライブで観るべきだと、もっと思ってもらいたい」と呟かれていましたが、下北沢を中心にライブハウスで活動を行っているフジタさんの「自分の楽曲を直接届ける意義」を教えてください。
フジタカコの曲は「聴く人が自分のことを主人公だと思える」ような音楽です。その歌の世界観や曲の中の生活感に、一番密に濃く入り込むことができるのがライブハウスだと思っています。画面を通して、や音源のレコーディングとはまた違って、一人ひとりの表情や聴き方と向き合いながらその時だけの曲を作り出すことが、自分の楽曲を一番生かしていると考えています。
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──今回演奏いただいた「天国」という楽曲の歌詞から引用しての質問になりますが、もし〈うたいかたをわすれたら〉フジタさんは何をしていると思いますか？
私には特筆できるような趣味や特技がありません。あまりに音楽が好きすぎて、意図的に作ってこなかった、という表現が正しいと思います。少し重い話かもしれないのですが…音楽がない生活や、フジタカコが存在しない自分には価値がないと思っていて。きっと少し打ちひしがれたあとに、死に物狂いで歌い方や声、音楽を探し始めるんだと思います。
──フジタさんの歌声は柔らかさと力強さが同居していて、どんな楽曲であれ曲の主役として順応する特別な歌声だと感じます。ヴォーカリストとして（またはシンガーソングライターとして）フジタさんがご自身で思う「強み」、または「こういう風に歌うことで自分の声を活かしていきたい」など、意識している点があれば教えてください。
よく力強くパワフルと言っていただけることが多い声ですが、自分自身ではその声の芯がどんな歌でもなくならないことが一番の強みだと思います。色々な曲調を歌ってもその芯がいることで、フジタカコが曲に食われることのない状況を作り出すことができていると考えています。また、同時に歌詞に説得力を持たせることができる声とも思っているので、聴く人に対して歌詞を一番スッと入れることのできる歌い方を意識しています。
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──フジタさんはライブ活動以外にも、YouTubeでの配信ライブやInstagramでの動画投稿など、今の時代に沿った、メディアを通しての活動も行っています。直接対面で新規リスナーと出会うこととSNSを通して出会うこと、それぞれ異なる形で「フジタカコ」というアーティストに出会う導線を作っていく上で感じる「難しさ」あるいは「気付き」があれば教えてください。
やはり、リスナーがフジタカコに出会う媒体によって求められている曲やアーティスト像は全然違うと感じていて、それが難しい点だと思います。ただ、それぞれで出会ったリスナーからのイメージが違いすぎるべきではないとも考えています。配信やメディアが特に活性化したこの3年間を通し、大きな「フジタカコ」という枠からははみ出さないままで、あくまでもその一面を覗き見してもらっていて、その全貌はライブハウスで、という形が良いというところに落ち着くことができました。
──日常を実直に歌うフジタさんの楽曲の中には、「ashita」や「群青」など思春期特有の劣等感に苛まれる姿も赤裸々に描かれています。そういった「情けなさ」をさらけ出すことによって、ご自身の中での心的変化（受け入れられるようになった、「こう考えていたのかもしれない」と気付けるようになった、など）はありますか？
正直、曲の主人公と自分の心情はリンクしていないことの方が多いです。自分の作り出した情景や生活のなかで、主人公を生かし動かしているような感覚で歌詞を書き進めています。
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──「群青」にある〈見渡せば群像　飛び出した雲上　押し寄せる春涛　ずぶぬれが勲章〉という歌詞の一文を拝見して、歌詞を作るにあたってはどんな作品や作家（映画、書籍など）をリファレンスしているのかが気になりました。理由と合わせて教えてください。
本屋さんでタイトル買いやジャケット買いをした小説などを読むことが多いです。歌詞を書く際は特に意識していませんが、言葉の選び方や想像する情景はそこから影響を受けていると思います。
──『musitTV』は各地のライブハウスを巡りながら展開していく音楽番組ですが、これまで特に印象深く忘れられないライブを、その際のエピソードを含めて教えてください。観客としてでも、あるいはプレイヤーとしてでも構いません。
去年の3月に大阪遠征へ行った時、自分の出番が終わった瞬間に裏で号泣したことがありました。その時までは、「聴く人が自分のことを主人公だと思える」ように、自分はヒーローだと信じ込んでライブをしていました。ですが、その頃ちょうど自分の中で音楽に対してネガティヴな感情を抱いていた節があって、自分の曲の主人公にすごく励まされたんです。痛いほど刺さった自分の歌詞が、今までにないアプローチの仕方でライブをさせてくれたというか。それ以来ステージへの上がり方が少し変わったんです。主人公であると同時に脇役でもあると思わせてくれたライブでした。
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──『musit』は音楽と様々なカルチャーを掛け合わせながら幅広い層へのリーチを目指すメディアですが、音楽以外で最も没頭しているカルチャー（または趣味）について具体的に教えてください。
今は食べることが一番没頭できることです。なにも考えずにいられるので、1人で美味しいご飯を求めて出かけることも多々あります。最近は特にラーメン、ハンバーガーなどのジャンキー系を攻めていて、近々新しいお店を探しに行こうと思っています。
──今年も様々なイベントへの出演を予定されていると思いますが、今後の展望を教えてください。
やはりフジタカコの音楽を聴いてくれる人が1人でも増えることが一番嬉しいことですが、具体的には、まずは日比谷野外音楽堂でライブをしたいです。開けたライブハウスという環境でどれだけ自分の声で歌えるか、試したいです。あとは、シンガーソングライターという枠組みに捉われすぎず、自分の音楽のコンセプトを生かし切れるコンテンツを発信し続けることができたら、幸せだなと思います。
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<h2>RELEASE</h2>
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フジタ カコ『グッドラックが聞こえない』
レーベル：WHiTE RECORD 
リリース：2023/04/05
＊スマートリンク：<a href="https://nex-tone.link/A00114674" target="_blank" rel="noopener">https://nex-tone.link/A00114674</a>

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musit編集部

写真家。1993年生まれ。小〜中学時代を中国・北京で過ごす。帰国後はバンドや弾き語りなどの音楽活動を経たのちカメラマンに転向。趣味は読書と釣り、好きなものは自然と生き物。アングラからジャニーズまで幅広く聴いたり観たりする。いつも元気。

井上恵美梨

【インタビュー】「あなた」に目掛けて送る生活の歌──フジタカコが掲げるヒロイックな作品像

執筆は稀、主に編集 UK/USインディーやエレクトロ・ポップなど。東京都福生市→渋谷区某所。苗場で肌を燃やしてる。クラフトビールと音楽の特異点を見つけたい。

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【インタビュー】「あなた」に目掛けて送る生活の歌──フジタカコが掲げるヒロイックな作品像

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