the scentedが2nd EP『scene』で示した、矛盾の肯定と諦念の先

the scentedが2nd EP『scene』で示した、矛盾の肯定と諦念の先

抽象的な言葉と特徴的な声で「記憶に残る」をコンセプトに活動する、the scented(ザ・センテッド)が2枚目の作品となるEP『scene』を11月21日にリリースした。 リード・ナンバー「海」から始まる全4曲は、不安に抗う姿、現状と争う姿を映し出し、新たな側面を見せる。

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the scentedは、ミヤ(Vo. Gt.)によるソロ・プロジェクトとして2021年1月より始動。3月には1st EP『sent』をリリースし、シンプルかつ空間的なバンドサウンドで、身近にありながらも遠くに感じられる日々の劣等を描いた。

プロジェクト名にも「scent(=匂い)」という言葉が使われているように、the scentedは匂いのように記憶に残る音楽、つまり聴覚以外の部分にも訴えかけるような楽曲制作をポリシーとしている。今回の2nd EPは『scene(=シーン)』というタイトルが示す通り、視覚的な情景が浮かび上がるような作品となった。そして、そこに描かれているのは矛盾を抱えた人間が諦念を打ち破る姿だった。

M-1.「海」

本作のトップを飾るのは、爆発力のあるイントロから幕を開けるリード・ナンバー。the scentedとして初めてリリースした「明滅」の終盤を凝縮したかのような楽曲で、前作と地続きであることを思わせながらも、アレンジ面については飛躍的に向上していることを窺わせ、より洗練されたアンサンブルを聴かせる。

歌詞においても、“この海の先には この日々の先には なにもない なにもない”と歌うサビのフレーズは、“指を咥えたまま ただ観ていた 今はどうしようもないことばかり”という「明滅」の歌詞を想起させる。両者に共通するのは「諦念」の感覚だ。

しかし、「海」は諦念の先を見据えているという点で、「明滅」と決定的に異なる。自分自身を捨てることができず、“淘汰される 前に”“ただひたすら走る”のだ。疾走感も相まって、諦念の境地から抜け出そうともがく「諦めの悪い」姿に心を打たれる。

M-2.「残像」

「海」のアウトロからシームレスに始まるミディアム・チューン。“痛みを共有できたなら 世界は平和になっていただろうか”というフレーズからは、筆者が以前の記事で書いたように、「痛みをアーカイヴ」しようとする姿勢が感じられる。残像に手を引かれながらもそれを拒み、退路を断ち切るかのような覚悟が滲む。

この楽曲で特筆すべきは、ミヤによるポエトリー・パートだろう。なぜなら、“言葉ですらいらないのさ 今は何もいらないのさ”と宣言しながらも、とめどなく言葉が溢れてくるという自己矛盾を抱えているからだ。しかしそれこそが、不器用ながらも今を生きようとする人間の姿そのものなのかもしれない。一切の矛盾もない、真っ直ぐな生き方だけが正解ではない──the scentedはの音楽はそうやって背中を押してくれている気がしてならない。

M-3.「過ぎる」

ミュートの効いたイントロの軽快なギターから始まるミドルテンポの楽曲。未曾有のパンデミックがようやく収束に向かいつつある、まさに今このタイミングで聴くと“もう過ぎ去った ただ見送るだけの日々 何か足りない 気がしているのは僕だけか”というフレーズにグッときてしまう。このまま、ただウイルスのなかった日々に戻っていくとしたら、やはりそれは何かが足りない世界なのではないか、とぼんやり考える。

そんな風に思考を巡らせていると、中盤以降は一転しテンポが加速、終盤で一気にバーストするアンサンブルで情感を解放する。「静」と「動」のコントラストが美しい。僕らが生きる日々は一瞬で過ぎ去ってしまう。毎日を大切に生きたい、と襟を正す。

M-4.「終焉」

「過ぎる」の勢いのまま、文字通り「終焉」へと雪崩れ込む。the scentedのレパートリーの中で最もシューゲイザーに接近した轟音が耳を覆うナンバーだ。初期のきのこ帝国や羊文学の楽曲群から感じられる、仄暗さの中で光を求めて彷徨うような姿が頭をよぎる。

「終焉」は、the scentedがバンドとして豊かな表現力を身につけていることを端的に示す。それは轟音だけではない。流麗なアルペジオ、躍動するリズム隊、そしてミヤの伸びやかなヴォーカル。これらの要素が、今できうる最大限のパワーを放っているのだ。

“失くしたものを探す”。プラスともマイナスとも受け取れる表現を残し、本作は冒頭の「海」に繋がっていくことを示唆するかのような波の音と共に終わる。

結局、日々の生活は終わらない。矛盾によって摩耗する生活は続く。しかし、諦念に陥ることを拒み、どうにかもがきながら前進しようとする。the scentedの音楽にはそんな気概が確実に宿っているのだ。

EPのタイトル通り、楽曲によって様々なシーンを浮かび上がらせたthe scentedの最新作。ひとたび耳を傾ければ、コロナ禍において始動したthe scentedの音楽がこの時代に鳴るべくして鳴っているその理由を、きっとお分かりいただけることだろう。

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RELEASE

the scented『scene』

※L:CDジャケット / R:デジタルジャケット

Label – Self Released
Release – 2021/11/21
¥1,500(tax in)

song list:
1. 海
2. 残像
3. 過ぎる
4. 終焉

取扱店舗:
the scented Official web store
アンダースコアレコーズ
LONG PARTY RECORDS
HOLIDAY! RECORDS
FLAKE RECORDS
・タワーレコード渋谷店

※ストリーミング他、各種リンクはこちら
https://linkk.la/thescented_scene

Music Video

PROFILE

the scented(ザ・センテッド)

空間的残響と日々の摩擦により生まれた言葉を駆使し、scent=匂い=記憶 に残る、音と声を武器に2021年1月より東京で活動開始。ミヤ(Vo. Gt.)によるソロプロジェクトで、他3人はサポートメンバー。ジャンルとしてはオルタナティヴ・ロック、抽象的な言葉と特徴的な声で「記憶に残る」をコンセプトに活動している。2021年1月4日から3週連続でシングルをリリース。3月には3曲まとめたEPを発売し、レコ発&活動開始記念ワンマンを西永福JAMにて開催した。

Vocal, Guitar:ミヤ
Guitar:佐々木理久(the pullovers / Cynical Animal Youth)
Bass:鴨下支音(asayake no ato / さよなら眼乱こりぃ)
Drums:小林仁弥

(執筆:對馬拓)

musit編集部