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the scentedが1st EP『sent』で描く、痛みのアーカイヴ

By對馬拓

抽象的な言葉と特徴的な声で「記憶に残る」をコンセプトに活動する、the scented(ザ・センテッド)が1枚目のEP『sent』を2021年3月17日にリリースする。バンド名の「scent」とかけた、送る・発信するという意味を持つ「sent」をタイトルに、シンプルかつ空間的なバンドサウンドで、身近にありながらも遠くに感じられる日々の劣等を描く。

* * *

the scented(ザ・センテッド)は、ミヤ(Vo. Gt.)によるソロ・プロジェクト。空間的残響と日々の摩擦により生まれた言葉を駆使し、scent=匂い=記憶に残る、音と声を武器に東京で2021年1月より活動開始。3名の固定サポートメンバーを迎えたバンド編成となっている。

the scented アーティスト写真

3月17日にリリースする1st EP『sent』は、既に先行配信されている「明滅」「残る跡、揺れる日々」「moon down」の3曲をまとめた1枚。

全ての記憶は生活に付随し、音や匂い、声、感触といった様々なきっかけを得て、人々は思い出す。
どうしようもない感情もいつかはどこかに終着するが、そのことがあったこと、それ自体は忘れないでいてほしい。
人間らしいそれらを私たちの音楽でごく普通に体験してほしい。
そんな思いが込められた作品となっている。

『sent』ジャケット

その言葉通り、空間系のエフェクトやシンプルながらも印象的なギター・フレーズ、そして切実なエモーションの発露で惹き込むミヤのヴォーカルによって、the scentedの楽曲は嗅覚や触覚といった、聴覚以外の部分にも訴えかける。そして、日々の生活の中で生まれるやり場のない負の感情を、否定することなくそっと肯定し、どうにか昇華しようとする。そこにあるのは、ミヤが「痛み」を共有しようとする過程そのものだ。

アコースティック・ギターの弾き語りから幕を開ける「moon down」では、〈知らない誰かが言った言葉を 私たちは無視できないはずだろう〉と歌い上げ、余計なものまで可視化されるSNS時代を憂いながらも受け入れようとする。

〈君が苦しむなら 僕も苦しむから 靴擦れが痛い まるで君の傷のよう〉と、まさに苦しみを共有しようとする「残る跡、揺れる日々」は、小気味良いギターのリフレインとキャッチーなサビが印象的で、早くもアンセムとなる予感さえあるナンバーだ。

そして、ギターの残響が美しく、シューゲイザーにも通ずる音像で聴かせる渾身の1曲「明滅」で、〈指を咥えたまま ただ観ていた 今はどうしようもないことばかり〉という、諦念にも似た感情の吐露に胸を打たれるだろう。

the scentedの楽曲は、日々の生活からこぼれ落ちた五感の記憶を閉じ込め、アーカイヴしようとしている。それは、聴き手が楽曲を「再生」することで現実のものとなる。そうして共有された記憶は、どうにも生きづらさを感じるこの時代への、ささやかな迎撃となるのだ。

羊文学、リーガルリリー、クレナズム、文藝天国といったリリシズムあふれる国内のオルタナティヴ・ロック・シーンのバンド群と共鳴しつつ、新たな風を吹かせる存在として、今後も注目していきたい。

また、the scentedは『sent』のリリースを記念して、3月19日に有観客と無料配信でのリリースライブも開催予定。彼女たちの第1歩を、是非とも目撃してほしい。

RELEASE

the scented 『sent』(CD)

Label – Self Released
Release – 2021/03/17
¥1,000(tax in)

song list:
1. moon down
2. 残る跡、揺れる日々
3. 明滅

取り扱い店舗:
・the scented Official web store
https://thescented.official.ec/
・アンダースコアレコーズ
・LONG PARTY RECORDS

 

MV

「moon down」Music Video

「残る跡、揺れる日々」Lyric Video

「明滅」Music Video

※サブスクリプション他、各種リンクはこちら
https://linktr.ee/thescentedjp

 

LIVE

2021/03/19
レコ発&活動開始記念ワンマン@西永福JAM
Open 19:30 / Start 20:00
ticket ¥2500+1D

 

PROFILE

the scented(ザ・センテッド)

空間的残響と日々の摩擦により生まれた言葉を駆使し、scent=匂い=記憶 に残る、 音と声を武器に2021年1月より東京で活動開始。 Vo.ミヤによるソロプロジェクトで、他3人は固定だが、サポートメンバー。 2021年1月4日から3週連続でシングルをリリース。3月には3曲まとめたEPを発売し レコ発&活動開始記念ワンマンを⻄永福JAMにて開催する。

Vocal,guitar:ミヤ
Guitar:佐々木理久(the pullovers / Cynical Animal Youth / 空前の灯火)
Bass:鴨下支音(さよなら眼乱こりぃ / 空前の灯火)
Drums:小林仁弥

writer

對馬拓のプロフィール画像
對馬拓

Taku Tsushima/92年、札幌生まれ。『musit』編集/執筆、『ヨムキクノム』スタッフ/バイヤー。個人ではシューゲイザーに特化したメディア&プラットフォーム『Sleep like a pillow』主宰。イベント企画やZINE制作、“知識あるサケ”名義でDJなど。

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Taku Tsushima/92年、札幌生まれ。『musit』編集/執筆、『ヨムキクノム』スタッフ/バイヤー。個人ではシューゲイザーに特化したメディア&プラットフォーム『Sleep like a pillow』主宰。イベント企画やZINE制作、“知識あるサケ”名義でDJなど。

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